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伯林 - 大都会交響楽 / Berlin: Symphony Of A Metropolis (1927)

 Walter Ruttmannが20年代のベルリンの街の姿を実にテンポよく、スタイリッシュに映し出した一本。この一大ドキュメンタリー絵巻は〈ベルリンまで15㎞〉という印象的な線路の看板から始まるが、本作を観るうえでは文字の情報というものはさほど気にする必要はない。
 1920年代の中期までは、RuttmannはHans RichterやViking Eggelingらと並んでドイツにおける絶対主義映画の旗手だった。だが、彼の幾何学的かつ抽象的映像作品が、RichterとEggelingに比べるとはるかに多くの観衆の眼に触れられていたことは、意外にも知られていない。Ruttmannの手掛けた前衛的な映像は、Fritz Langの『ニーベルンゲン』(1924年)のような大作映画にも、Lotte Reinigerの『アクメッド王子の冒険』(1926年)のようなアニメ作品にも実は登場している。
 Ruttmannの次なる目標は、無機物ではなく実在するベルリンのショットで映像的シンフォニーを作り上げることだった。これは言うまでもなくソ連映画の記録主義の波を受けたものだ。巧みなテンポでモンタージュされた映像の数々は今見てもなお鮮やかである。特筆すべきは、Ruttmannがベルリンという街をまるで一つの生命体のように捉え、静と動のコントラストを観客に意識させようとしている点だ。朝の4時から撮りはじめたという映像は、最初はしん●●と静まり返っているが、そこから次第に交通、産業、そして人々が動き出す。午後の穏やかなやすらぎを経て、ラストの夜の喧騒へと繋がっていく様には、この映画には本来存在しないはずのストーリー性を感じずにはいられない。社会批評の精神は薄かったが本作の影響は絶大で、サイレント末期の『日曜日の人々』(1930年)で描かれたナチ台頭前夜のベルリンの情景はそのよい例だといえる。