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Herb Alpert's Tijuana Brass – Whipped Cream & Other Delights (1965)

 ソングライターやビジネスマンとしても大成したHerb Alpert。ビルボードのポップ・チャートのナンバー1を獲得したアルバム『Whipped Cream』によって、彼はレコーディング・アーティストとしても頂点に立つことになる。このアルバムのヒットは、当時Alpertらが立ち上げたばかりのA&Mレーベルの勢いを大いに加速させ、さらに写真家Peter Whorfによる魅惑的なDolores Ericksonのポートレートは、60年代ポップ・カルチャーのアイコンのひとつにもなった。
 「Love Potion No. 9」のようなソウル・ヒットやThe Beatlesのカバーで若者に広く知られていた「A Taste Of Honey」といった曲が、ポップど真ん中なジャズ・サウンドにアレンジされている。その一方でSol Lakeによるオリジナル・ナンバーはいずれも際立っており、「Green Peppers」や「El Garbanzo」は明るいラテン・ジャズの傑作で、「Bittersweet Samba」はアルバム中で最も小品ながらも、John Pisanoのギターとどことなく翳りを感じさせるAlpertのトランペットのハーモニーが絶品である。
 やや古風でファンキーなシングル曲の「Whipped Cream」は、Allen ToussainがNaomi Nevilleという変名で書いたものだ。「Ladyfingers」は物思いにふけるにはもってこいの一曲で、哀愁のメロディとさりげないヴァイブのサウンドが、陽気な雰囲気に満ちたこのアルバムに深みを与えている。
 本作のヒットはAlpertにとってはほんの前菜に過ぎず、ゴールド・ディスクを連発したTijuana Brassの快進撃は60年代の終わりまで続いた。比類なきイージーリスニングがたくさん生まれた、まさにポップスの黄金時代である。