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Al Cohn – Jazz Mission To Moscow (1962)

 スイングの王様Benny Goodmanのキャリアの中で最も重要なステージといえば1938年のカーネギー・ホールだが、冷戦下で行われたソビエトでの大々的なジャズ・コンサート・ツアーも忘れがたいものがある。62年、キューバ基地発覚の直前というヒリヒリした状況でありながらも、ソ連の観客はオーケストラの演奏にただ熱狂した。その様子はモスクワ公演のライブ盤でも知ることができる。
 Goodmanのオーケストラのメンバーは帰国後にアレンジャーであるAl Cohnのもとに集められ、ホットな企画アルバム『Jazz Mission To Moscow』のレコーディングに参加した。クレジットのうち、トランペットのMarky MarkowitzとピアニストEddie Costaは先のツアーに関わってはいなかったが、意外にもこの両名はアルバムの随所で印象的なプレイを聴かせてくれる。
 「Mission To Moscow」はもちろんモスクワで披露されたナンバーで、Costaの目が覚めるようなピアノの連弾がセッションをけん引する。まるで雷のようなサウンドだ。Goodmanファンにはおなじみの「Let's Dance」のような曲もあるが、Markowitzが美しいソロを聴かせる「The Sochi Boatman」や、Phil WoodsとZoot SimsそしてWillie Dennisと、続けざまに軽快なホーンが耳を惹く「Red, White And Blue Eyes」のようなロシア伝統歌に、Cohnの的確なアレンジ・センスが光る。
 妙味にあふれたオーケストレイションと、各ソリストのダイナミックな演奏は実に痛快だ。WoodsやSimsたちがソ連で初めて公認されたジャズ・バンドだったというのもうなずける。