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Bobby Timmons Trio – Born To Be Blue! (1963)

 本作にライナーノーツを寄せた音楽プロデューサーDavid Himmelsteinによれば、これはBobby Timmonsが自身の最高傑作だと断言した一枚だという。それまでのファンキーなピアニストとしてのスタイルを〈ジャズから乖離した商業主義〉呼ばわりされることも少なくなかった彼だが、本作はそういった批判へ当てこすった感傷的な作品ではない。『Born To Be Blue!』にはTimmonsの音楽が持つ多面性が的確に表現されている。
 気品とリリシズムを感じさせるタイトル・トラックを含めた冒頭の3曲で、Timmonsはファンキーさを意図的に、というよりはあからさまに抑制している。「Malice Towards None」ではSam JonesとConnie Kayによるリズムが孤独なムードを打ち出しており、「Sometimes I Feel Like A Motherless Child」はTimmonsのタッチが緩急や強弱を自在に操る。濃淡をあざやかに描き出す水墨画を想起させるが、どうやらこの絵は墨ではなく美しいブルー一色で描かれているようだ。
 「Know Not One」は最もTimmonsらしいファンキーなナンバー。Ron Carterをフィーチャーしスイング感を強めた「Namely You」に続くのは、9分間に及ぶ「Often Annie」の濃密なアンサンブルだ。Bud Powellを思わせるテクニカルなピアノとJonesの思索的なベース・ソロの導入に始まるこの曲では、終始圧倒的なインプロヴィゼーションが繰り広げられている。
 『Born To Be Blue!』はファンキー・ジャズにとどまらないTimmonsの才能の発露であり、挑戦の成果ともいえる一枚だ。