見出し画像

Tiny Tim – God Bless Tiny Tim (1968)

 Tiny TimことHerbert B. Khauryは、目にも耳にも強烈な印象を残す個性と職人的な歌のレパートリーの豊かさを武器に、グリニッジ・ヴィレッジでまず注目を集めた。ファルセットで戦前のポピュラー・ソングを歌う温故知新のスタイルはTVや映画の出演でたちまち話題を呼び、本作に収録された「Tip Toe Thru' The Tulips With Me」のシングルは予想外なまでにアメリカ国民の心をつかんだのだった。
 旧き良きティン・パン・アレイの歌が鮮やかによみがえる『God Bless Tiny Tim』は、驚きと感動の連続だ。「On The Old Front Porch」ではスティール・ギターを取り入れたバンドをバックに、「I Got You Babe」では自身のウクレレの弾き語りで、それぞれ男女のデュエットを披露しているが、これはKhauryが一人で歌声を使い分けているのだ。ローファイな「Stay Down Here Where You Belong」やグルーヴィーな「The Other Side」は、奇妙で目まぐるしいアレンジがサイケデリックな時代と絶妙にマッチしている。
 Nick Lucasが1920年代にブロードウェイで歌った「Tip Toe Thru' The Tulips With Me」は、内容こそ無邪気な男女のやり取りを歌っているものの、Khauryのバージョンには白昼夢のようなアヤしい雰囲気を感じることもできる。本作の収録曲の多くがコンサートの定番になったが、中でもこれは彼の人気を不動のものにした名曲だ。ショーマンシップを生涯貫いたKhauryは、病を押して立った96年のステージで心臓発作を起こして帰らぬ人となったが、その時彼が歌っていたのはまさにこの曲だったという。