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J.B. Lenoir – Alabama Blues (1966)

 ハイ・トーンな歌声と派手なステージ衣装で有名なJ.B. Lenoirは、合衆国の中にはびこっていた人種差別や暴力だけでなく、ベトナム戦争といった世界的な社会情勢にまで切り込むことのできる数少ないブルースマンのひとりでもあった。Lenoirが生前に発表した唯一のアルバムである『Alabama Blues』には、シカゴの大物Willie Dixonが制作に携わっているが、録音のきっかけそのものはHorst Lippmannというドイツ人プロデューサーのつよい熱意によるものだった。かつて検閲の憂き目を見たこともあったLenoirだが、Lippmannはアメリカ国内の市場など最初から無視していた。そのおかげでLenoirは誰の顔色もうかがうことなく、自由な内容の歌を録音することができたのである。
 タイトル・トラックにもなった「Alabama Blues」は、南部での黒人の受けるひどい仕打ちを歌ったものだが、そこはLenoirといったところで、彼は歌詞の中に〈barbwire〉や〈police officer〉といった生々しい言葉をちりばめている。一方「Move This Rope」では、生きる苦しみを首吊りのロープというメタファーに集約している。アメリカの擬人化であるアンクル・サムに語り掛けるスタイルの「Vietnam」は特に厭戦感の強い一曲だ。同時期に録音された「Vietnam Blues」と内容もよく似ている。
 Lenoirの真骨頂が暗い風刺歌にだけあると考えるのは大きな間違いで、本作には「The Mojo Boogie」や「Talk To Your Daughter」のような陽気なブギー・チューンも収録されている。いずれもロデオのように跳ねまわる独特なリズムが特徴だが、それもそのはず、このドラムはシカゴ・ブルースの重鎮Fred Belowによるものである。
 痛烈な社会派ブルースの宝庫となった『Alabama Blues』は、当初はヨーロッパでしか流通しなかった。アメリカ国内でLenoirのアルバムが発売されるようになったのは、彼が67年に亡くなった後のことである。