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Bob Dylan – Bringing It All Back Home (1965)

 『Bringing It All Back Home』はBob Dylanがサウンドと歌詞の両面で大きな変化を見せたアルバムだ。メッセージの明解さをあえて排除した神秘的な歌や、エレクトリック・バンドを迎えて録音した激しいビートは、今聴いても新鮮さにあふれている。しかしこうした急激な舵の切り方は、それまでDylanを孤高の社会派ヒーローと目していた一部のリスナーの反発も招いた。
 A面はBobby Greggの重たいドラムをフィーチャーした「Subterranean Homesick Blues」で始まる。Dylanはこの曲でChuck Berryの「Too Much Monkey Business」のようなトーキング・ブルースを強く意識しており、偏執的な踏韻を繰り返すことでシュールかつナンセンスな世界を作り出した。ほかにも一筋縄でいかないラブ・ソング「Love Minus Zero / No Limit」、憂鬱にまみれた「Maggie's Farm」などは後のライブの重要なレパートリーにもなり、さまざまなアレンジで演奏された。また「Bob Dylan's 115th Dream」では、スタジオにおけるミステイクのやりとりをそのまま収録する遊び心(あるいは余裕だろうか?)を見せた。
 一方B面はアコースティック・ギターの弾き語りで構成されている。夢の世界へ連れていかれてしまいそうな「Mr. Tambourine Man」は、本作の中でも特に印象的な一曲だが、同時に最もつかみどころのない歌だともいえる。この曲でフォークの純粋主義者はまたも置いていかれそうになるが、社会派のDylanは本作でもしっかり健在で、特に7分半にわたる黙示録「It's Alright, Ma (I'm Only Bleeding)」で、彼は合衆国大統領までもが最後の審判の対象となるのだ、と説いている。
 本作では片面だけにとどまっていたフォーク・ロック・サウンドの萌芽は、次々作の『Blonde On Blonde』ではレコード二枚組の規模にまで拡大し、深化していった。Dylanのスピードについていけなかった者がいたとしても、それは決して不思議なことではない。