見出し画像

Walter Davis – Think You Need A Shot (1970)

 このやさぐれた女には見覚えがあるはずだ。日本の(それも古株の)ブルース・ファンには『RCAブルースの古典』のジャケットとして親しまれている絵だが、使用されたのはもちろんこちらの方が先である。
 若いうちから才能を独学で開花させたWalter Davisは戦前のセントルイスで活躍し、ヒット曲もかなり飛ばしたブルース・ピアノの名手の一人で、本作は伝説的なRCAやブルーバードの録音をまとめた彼の最初期のLPだ。有名な「M.&O. Blues」は1930年にDavisが初めて吹き込んだナンバーで、当時の彼は弱冠18歳。まだレコード・ビジネスに疎く、慣れないスタジオの中でビビったDavisは、緊張でピアノがプレイ出来ないほど手が震える始末だった。急遽代わりに〈Willie Kelly〉なるピアニストが伴奏を務めているが、これは実はDavisを見出したRoosevelt Sykesその人である。だが、ボーカルの言葉遊びが印象的なこのレコードは結果的に大ヒットし、Davisは一躍有名ブルースシンガー●●●●の仲間入りをしたわけだ。
 肝心のDavis自身のピアノだが、賑やかなバレルハウスとは一風異なるスタイルで知られる。テンポも穏やかなものが多く、彼の聴き取りやすい歌声と見事にマッチしているのが、「Root Man Blues」のようなスロー・ブルース曲でわかるだろう。独演で男の寂しさを歌う「Just Want To Talk Awhile」の渋みや、「Let Me In Your Saddle」のパワフルで独特なリズム、そして「Minute Man Blues」で繰り広げられるHenry Townsendのギターとの絶妙な掛け合いも見逃せない。
 脳梗塞の後遺症によりDavisの戦後のキャリアは閉ざされてしまった。古巣であるセントルイスのホテルなどで働いたが、彼の晩年の関心はもっぱら説教にあったという。なるほど彼の通る声ならば、誰もが耳を傾けたにちがいない。