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Donna Summer – Love To Love You Baby (1975)

 Giorgio MoroderとPete Bellotteという強力な味方がいたにも拘らず、Donna Summerのソロデビューは後の偉大な業績から見れば考えられないほどに小規模なものだった。前作の『Lady Of The Night』はヨーロッパの限られた地域で発売されたアルバムであり、世界的に認知されるための起爆剤を仕掛ける必要があったSummerたちは、非常に思い切った新たなディスコ作品を作り上げてみせた。
 音楽でセックスをするというアイディアはSummerによる発明というわけではなく、正確に言えばJane BirkinとSerge Gainsbourgによる「Je T'aime...Moi Non Plus...」から着想を得たものだ。しかし、約17分にも及ぶミドル・テンポに乗せて、透き通るようなささやきときわどい喘ぎが延々と交錯するタイトル・トラック「Love To Love You Baby」は、彼女の次世代ディーバとしての印象を決定づけるものだった。
 レコードのB面で繰り返される「Full Of Emptiness」は、もともと『Lady Of The Night』に収録された秀逸なバラードで、愛に溺れるA面の陶酔を醒ますかのような儚い歌が、ピアノやカントリー的なギターの音色とともに聴く者の心へ届く。「Need-A-Man Blues」はサウンドこそ最先端だが、そこで描かれる光景は伝統的なブルースとなにも変わりはしない。
 『Love To Love You Baby』は愛が生む一心不乱な陶酔と、そこから生まれる深い思索や悲嘆という二面性が見事に描写された初期ディスコの傑作である。本作でクイーンとしての大きな一歩を踏み出したSummerは次々とヒットを生み出していくが、特にカサブランカ・レーベルから発表されたアルバム群はすべて名盤と讃えるにふさわしいものばかりだ。