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The Red Norvo Trio – Move! (1956)

 50年代の初頭に吹き込まれた『Move!』は、ヴィブラフォニストRed Norvoのモダンな魅力が詰め込まれた偉大な作品で、同時にベーシストCharles Mingusがまだ無名だったころの貴重な録音ともいえる。Jimmy Rowlesの推薦でNorvoのトリオに加入したMingusは、本作の「Move」で聴けるような目まぐるしいピッキングを披露し、大御所のNorvoに果敢に挑む技巧派として、ジャズ・ファンから少なからぬ注目を集めた。コラムニストのRalph J. Gleasonはその一人で、彼は当時のMingusに大いに熱を上げた記事をダウン・ビート誌へ寄せている。
 Norvo、Mingus、ギターのTal Farlowからなる変則的な編成は、スタンダード「I'll Remember April」を新鮮なサウンドで抒情的に描き出す。その一方、George Wallingtonの「Godchild」では短いながらも緊張感のあるインタープレイを生み出していく。「This Can't Be Love」や「Cheek To Cheek」も有名なナンバーだが、Norvoの手数の多いヴァイブには気負いのないクールさがあり、トリオの演奏はドラムレスだというのにとてもスインギーなグルーヴを湛えている。
 残念ながら外部との人種的なしがらみによって後にMingusがトリオを脱退したが、『Move!』はNorvoのキャリアの中でも特に異彩を放ち、かつ印象に残る一枚である。