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Gigi Gryce – The Rat Race Blues (1960)

 Gigi Gryceがプレスティッジの傍系であるニュー・ジャズに残した最終作。1959年に創設され、名前の通り先進的な音楽を推進してきた同レーベルにとって、ブルースに彩られた本作は一見正統派な一枚だ。とはいえ、アルバムの目玉である「The Rat Race Blues」(後に彼の評伝のタイトルにもなった)はGryceの編曲家としての個性が光るナンバーで、Richard WilliamsのトランペットとGryceのアルトがそれぞれ異なるキーでソロを執った一風変わったブルースでもある。それでいながら実に聴きやすいハード・バップとして完成されている。
 Norman Mappの隠れた名曲「Blues In Bloom」は、Julian Euellの静かなベースの導入から始まり、クールで抑制の効いたソロの応酬が楽しめる一曲だ。本作の聴きどころの多くは2ホーンの妙だが、「Strange Feelin'」における軽快なタッチを聴けばわかるように、Richard Wyandsのピアノも同様に重要である。「Monday Through Sunday」は11分にわたって感情的かつドラマティックな演奏が展開されており、Gryceのブロウには静かなソウルとパワーがみなぎり、残りのメンバーもそれにつられて沸き上がるような演奏を聴かせる。
 バッチリと噛み合ったクインテットのサウンドは成功の予感が満ちていたが、Gryceは翌年にEddie Costaをフィーチャーした『Reminiscin'』を発表した後にジャズマンを引退した。その後は音楽教育や著作権管理の仕事に携わるようになり、83年に亡くなるまで録音を残すことは無かった。