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DJ Shadow – Endtroducing..... (1996)

 アルバムの全編をサンプリングによって構築するという手法は、現在から見てもいかにも挑戦的に見えるかもしれないが、DJという人種がクリエイターとしての市民権を得るには必要な手段だった。サンプリングという行為がヒップホップの枠を超えて音楽ファン全体に認識され、なおかつそれが非常にクリエイティビティを持っていることが認められるにはとても長い時間がかかっている。Joshua Paul Davis(DJ Shadowの本名)はそれまでクラブのエンターテイナーとしてではなく、クリエイターとしての正当な評価をされてこなかった彼らが、いかに創造性にあふれた人々なのかということを、アルバム『Endtroducing.....』で示した。
 数えきれないほどのアルバムから切り取られたビートとサウンドは、〈すべてがサンプリングによって構成された初めてのアルバム〉というギネスブックの栄誉と、インスト・ヒップホップのクラシックとしての歴史的な価値を本作に与えた。「Stem」をはじめとして全体的に重たく暗い雰囲気が包んでいるのは、Nirvana(もちろんシアトルとは別のバンドだ)のような初期プログレや、David Axelrodの儚げなフュージョン「The Human Abstract」など、驚くほどにルーツが多岐にわたっているからだ。DJ Shadowはこれらの静謐で美しい音楽にファンク由来のビートを与えることで全く新しいダウンテンポの世界、ひいてはトリップホップというジャンルを確固たる存在にした。
 前述した本作の制作過程は人の喋りの部分でさえも徹底していた。彼は出来上がったトラックに新たにラップを被せるようなことはせず、コメディ・レコードからセリフを引用することで、全体を包む厭世的な印象に拍車をかけている。『Endtroducing.....』は楽器やマイクを用いずともレコードが作れるということだけでなく、新たな音楽を開拓することさえも可能なのだと証明した。