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Elvis Presley – Tomorrow Is A Long Time (1999)

 現代のリスナーにはおよそ伺い知れないことだが、純然たるシンガーとしてのElvis Presleyのファンにとっては、彼が映画の撮影に忙殺されていた60年代はある種忍耐の時代だった。傑作『How Great Thou Art』はゴスペルの到達点を示しているものの、『From Elvis In Memphis』や『TV Special』といった〈復活作〉が世に出るまで、彼の歌のほとんどはサントラ盤のカラフルなパッケージに包まれていた。
 そうした状況が30年越しに本作のようなCDを生んでしまった。『Tomorrow Is A Long Time』は66年以降のPresleyの非サントラ用の音源を収集したアルバムで、64年までの音源からなる『For The Asking』と対になるような形で発表された。爆弾のようなドラムから始まるThe Cloversの名曲「Down In The Alley」やJimmy Reedの「Big Boss Man」は、ロックンロールの持つ欲望や、ブルースの抱えるフラストレーションをこれ以上なくむき出しにしている。また、前者の録音と同時に吹き込まれたのがBob Dylanによる「Tomorrow Is A Long Time」だ。66年のサントラ『Spinout』のボーナス・トラックとして世に出たこの曲は、Dylan本人のお気に入りとなった特別な歌でもある。
 白眉はJerry Reedの「Guitar Man」で(そういえばThe Blue Heartsが似た歌を歌っていなかっただろうか?)、PresleyはギタリストとしてReed本人をスタジオに招聘するほどこの曲に強いこだわりを持っていたようだ。81年にトラックを再録した際も彼はエレクトリック・ギターで参加している。
 アメリカ人としての強い自己顕示を見せた「U.S. Male」、ベトナム戦争の時代に合わせて歌詞が少しだけ変化している「Too Much Monkey Business」など、すべての曲に耳を奪われる。やっぱりElvisは素晴らしい。最高だ。