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The Zombies – Odessey And Oracle (1968)

 ある種吹っ切れた人間の生み出すパワーはすさまじいものがある。デビューシングル「She's Not There」以来、The Zombiesのメンバーは学校を中退までしたにもかかわらず、なかなか本国でのヒットに恵まれなかった。アメリカでは一定の評価を得てこそいたが、1967年に入るころにはバンドは結束を失っていた。解散も視野に入れてCBSレーベルとの契約を得たのちに、最後の記念のような心もちで制作された本作は、あろうことかバロック・ポップのみならず、ロックの歴史に燦然と輝く傑作となってしまった。
 冒頭の「Care Of Cell 44」のように豪奢なストリングスや、ホーンセクションが大々的に導入され、R&Bバンドだった初期と比較するとサウンドの変化は著しい。さらに「A Rose For Emily」ではColin Blunstoneの吐息交じりのボーカルを中心とした厚みのあるコーラスワークが展開されている。こうした趣向にThe BeatlesやThe Beach Boysの影響を見出さないものはいないだろう。しかし、このサイケ・ポップにジャズの香りを加えてThe Zombiesとしての確かな個性を作り出しているのがRod Argentのキーボードだ。
 「This Will Be Our Year」を歌い上げるBlunstoneは一転してソウルフルだ。また、ライターとして開花したChris Whiteは、「Butcher's Tale (Western Front 1914)」で西部戦線の悲劇を追憶している。ベトナムに向けた反戦のメッセージを、暗いサウンドに乗せてインテリ・バンドらしく伝えてみせた。いずれも一級のポップスに仕上がっており、アルバム全体が時代を反映した万華鏡のようである。
 極めつけはやはり「Time Of The Season」だ。ジャズへのありったけの情熱をぶつけたArgentのキーボード・ソロは、CBSのプロデューサーだったAl Kooperの心をつかみ、彼の勧めでシングル・カットされたちまち大ヒットとなる。しかし、彼らの当初からの解散の決意は固く、Blunstoneはソロ活動に、ArgentはWhiteとともにロックバンドArgentを結成し、それぞれの道へ進んでいった。