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Aretha Franklin – I Never Loved A Man The Way I Love You (1967)

 1967年の春、名曲「Respect」の生みの親であるOtis Reddingはアトランティック・レーベルのプロデューサーJerry Wexlerにぼやいていた。彼はAretha Franklinが歌い上げる「Respect」の大胆な歌詞解釈、なにより生き生きとした彼女のボーカルを聴いたとき、〈盗られたね。この曲はもう彼女のものだ〉と悟ったという。この時の複雑な心境は、ReddingのライブMCでもしばしば聞くことができる。
 Franklinは男女の間で生まれる礼節を歌った「Respect」のテーマを、社会や時代を超越した人間の尊厳と自由にまで拡大してみせた。彼女の歌い上げる主張は、公民権や女性の権利向上運動といった当時の時運にも見事に合致するものでもあり、同曲はたちまちアメリカ国民のアンセムとして広く受け入れられた。
 演奏も完璧だ。王者King Curtisの貢献は、ソウル・バラード「I Never Loved A Man (The Way I Love You)」の素晴らしいサックスだけではない。「Soul Serenade」はかつて彼が書いた曲に力強いFranklinのボーカルが乗せられている。ラストのSam Cookeの「A Change Is Gonna Come」まで名曲のソウル・カバーに彩られた本作では、Spooner Oldhamをはじめとした名うてのプレーヤーたちが彼女のボーカル・パフォーマンスを最高のレベルまで引き上げている。
 Franklinのコロンビア期のアルバムはポップ性が高かったものの、自身のルーツを引き出しきれず方向性を定めあぐねている、としばしば受け取られていた。しかし彼女はゴスペルとポップスを完璧にブレンドしたこのアルバムで、アトランティックから再デビューを果たした。本作のブレイクスルーはソウル・クイーンの才能を見事開花させたのである。