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Pepper Adams Quintet (1957)

 本作に参加しているドラマーのMel Lewisは、かつてPepper Adamsのことを〈The Knife〉と呼んでいた。〈格の違いを見せつけ、他の連中をメッタ切りにするくらいのすごみがあった〉と語るLewisの讃は、一見ジャズマンへの誉め言葉には聞こえないかもしれないが、その形容は的を射ている。なぜならAdamsの楽器は、アンサンブルの中に埋もれることなく常に鋭く耳に迫ってくるバリトン・サックスだからだ。
 Stan Kentonのオーケストラを退団した後、モードという小さなレーベルに残した『Pepper Adams Quintet』には、バリトンの持つ本質的な豪快さと柔らかみが共存している。LewisとLeroy Vinnegar両名による洞察力に優れたリズム隊は、「My One And Only Love」のようなバラードから疾走感あふれるハード・バップ・ナンバーの「Baubles, Bangles And Beads」に至るまで、的確にホーンを演出する。Adamsが持つジャズのマジックがいっそうの輝きを放っているのは、この二人の功績によるものだ。
 「Freddie Froo」と陽気なラテン風の「Muezzin'」はいずれもAdamsの優れたオリジナルである。後者でのAdamsは、Stu WilliamsonのトランペットとCarl Perkinsのピアノとのソロ・リレーを、終始リラックスした雰囲気で交わしてアルバムを締めくくっている。
 Adamsは後にLewisがニューヨークで結成したオーケストラで、長期にわたって活躍した。本作はビッグ・バンドにおける彼とはまた違った一面を印象付ける一枚である。