見出し画像

George Harrison – Wonderwall Music (1968)

 Joe Massotによる低予算映画のサウンドトラックとしてGeorge Harrisonが制作した『Wonderwall Music』は、The Beatlesのメンバーによる初のソロ・アルバムとなっただけでなく、アップル・レーベルのLP第一号にもなった。Harrisonは当時深く傾倒していたインド音楽のテイストを惜しげもなく本作に注ぎ込んでいるが、同時に仕事をプロフェッショナルに仕上げもした。作曲家John Barhamと共同で綿密な楽譜起こしを行い、映像と時計とを見比べながらによる正確な時間配分で音楽のスケッチを制作する。それをもとにロンドンとインドのスタジオで大掛かりなレコーディングを行っており、おかげでサントラの制作費は15,000ポンド(映画本編の制作費の約1/4に相当する)にまで膨れ上がってしまった。
 幻想的な「Red Lady Too」や、メロトロンを使用した「Wonderwall To Be Here」は催眠効果さえ感じさせる見事なトリップ・チューンである。こうした本作のロック・サイドに深く貢献したのは主にThe Remo Fourのメンバーだが、「Ski-ing」ではEric ClaptonとRingo Starr、Big Jim Sullivanが参加し、強烈なハード・ロックを展開している。
 だがトラックの大部分はタブラやシタールを用いた本格的なインド・クラシックだ。「In The Park」や「Love Scene」など、東洋の神秘的なメロディとリズムは、現実と妄想が入り乱れる映画の雰囲気をよく演出している。だが「Drilling A Home」のようなコミカルなナンバーは実際に本編を観ていないと意図はほとんど汲めないだろう。
 映画はJane Birkinの美貌とサイケ・ファッションが全編を支配する前衛的な作風で、カンヌ国際映画祭にも出品されたものの一般に公開されたのは90年代に入ってからだった。結果的にアルバム『Wonderwall Music』は未公開の映画のサントラとなり、さらに内容も実験的な作風だったにもかかわらず、アメリカのビルボードのアルバム・チャートに16週にわたってランクインした。