Billy Joel – The Stranger (1977)
Billy Joelと名プロデューサーPhil Ramoneの長い蜜月はこの『The Stranger』から始まった。本作に収録された曲にはロックンロールからジャズ・ボーカルに至るまで多様なジャンルが取り入れられているが、そのいずれにも息苦しいコミュニティに生きる若者たちへのメッセージが込められている。
中産階級へのシンパシーに満ちた「Movin' Out (Anthony's Song)」や、彼の長いキャリアの中でもトップ・クラスに美しい名曲「Just The Way You Are」などがシングル・カットされている。特に後者はグラミーの最優秀賞を獲得したスムース・ジャズの傑作だ。「Only The Good Die Young」は思春期の男女のセックスへの好奇心を描く内容が物議をかもしたが、むしろ興味深いのはこの曲が当初レゲエのビートで歌われていたという事実だ。
人生を俯瞰した「Vienna」でJoelは、ニューヨークの若い男女からではなくオーストリアに住む彼の父親との対話から歌詞の着想を得ている。Ramoneのサウンド・プロデュースが最も効果的に活きているのは、「The Stranger」の冒頭におけるハードボイルドなピアノと口笛のメロディだ。このシークエンスは、アルバムの最後を飾った壮大なコーラス曲「Everybody Has A Dream」の最終部で印象的に繰り返されている。
一曲一曲のモチーフは歌詞においてもサウンドにおいても非常に幅広いものの、Ramoneの確かな演出力によって、『The Stranger』にはまるでコンセプト・アルバムのような雰囲気が流れている。さらに、突出した名曲に埋もれない底力をもった佳曲たちによって、本作はポップ・ロックの名盤として永遠の存在になった。