見出し画像

宮間利之 & ニューハード – The New Herd At Monterey (1975)

 1974年9月20日、宮間利之率いるニューハードはモンタレーの舞台に上がり、日本のバンドとして初めて本場アメリカのジャズ・フェスティバルに出演する快挙を成し遂げた。だがそれと同じくらい素晴らしかったのは、ニューハードが日本ならではのジャズを現地の聴衆に提示し、同時にDizzy Gillespieのような巨人たちとも最高の共演を繰り広げたことである。
 バンドは観客の誰もが知るスタンダードの編曲と、観客の誰も知らない和風のジャズ組曲を引っ提げ、バンザイの三唱とともに登場した。ディキシー風の味付けを施した「Donna Lee」では、トランペットの岸義和のソロの後、メンバーに忍び込んだGillespieがしれっと登場するというコミカルな演出がなされた。ファンキーな「Sniper's Snooze」やフリーなソロの応酬からなる「Pithecanthropus Erectus」など実に多彩だが、それに挟まれた二曲が本作のハイライトだ。フルートとギターがまるで尺八と箏のように美しく響く「振袖は泣く」と、10分にわたって日本の伝説を描いた大曲「河童詩情」はいずれもギターの山木幸三郎のペンによる傑作。特に後者はオリジナルで20分以上あったものを、コンサートのために10分以内に収めるという荒業を見事完璧にやってのけている。
 アンコールの「Manteca」も語り草で、Gillespie、Mongo Santamaria、Cal Tjaderらが加わって壮大なラテン・ジャムを繰り広げる。アンコールに登場する意外な人物は、かつてGillespieとともにビバップの創生に携わり、いわゆるミントンズ・プレイハウスの一員として知られるKermit Scottだ。演奏の熱狂に中てられて思わずステージに飛び出したというScottは、当時ほとんど表舞台に出てはいなかった幻のジャズマンだったが、そんなブランクなど感じさせない感動的なスピリチュアル・テナーのソロを聴かせている。