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Writing On The Wall – The Power Of The Picts (1969)

 〈Writing On The Wall〉とは英語で凶兆を示す言葉である。かつてStevie Wonderが名曲「Superstition」の中でも引用していたこの古めかしいことわざは、おどろおどろしいドクロのジャケットともにこのバンドの音楽を神秘主義のベールで包んでおり、そんな本作のサウンドを端的に表すのは難しい。ボーカルのLinnie Patersonのソウルフルで演劇じみたセリフ回しはArthur BrownやRoger Chapmanを思わせるし、Willy Finlaysonの重たいギターの生むリフは、スコットランド人にとってのピクト族よろしくストナー・ロックのご先祖とも呼べそうだ。
 だが、彼らのサウンドが印象に残りやすいのはBill Scottの手腕によるものが大きいだろう。「It Came On A Sunday」はこの時代特有のプログレ・ハードで、ScottののジャジーなオルガンとFinlaysonのブルースが複雑に絡み合う充実のセッション曲だ。のどかなフォーク・ダンスから頭を殴られるようなサウンドになだれ込む「Bogeyman」では、Scottのクラビネットが混沌とした曲の雰囲気へ巧みに拍車をかけていく。ラストの「Virginia Water」はわずか6分間の中に果てしない狂気が表現されている。
 だが、1969年の本作だけでは彼らの豊かな音楽性のわずかな部分しか伺うことはできない。後年登場した様々な未発表音源では、穏やかなフォーク・バラードやサックスをフィーチャーしたジャズ・ロックも含まれている。いずれも興味深いものばかりだ。