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Otis Redding – Otis Blue / Otis Redding Sings Soul (1965)

 信じがたい話だが、Otis Reddingのキャリアを代表する名盤にして60年代ソウルの決定盤となった『Otis Blue』は、たった2日間にわたるレコーディング・セッションで完成している。時間的なスピード感はReddingのシャウトに若々しい勢いを与えた。しかしそれと同時にバラードやミドル・テンポの曲における彼の毛布のように柔らかな歌声には、それまでのアルバムになかった洗練性が生まれている。
 『Otis Blue』は決して綿密に作り込まれたタイプのレコードではない。たとえば、蒸気機関のような凄まじいビートで圧倒するThe Rolling Stonesのカバー曲「Satisfaction」は、レコーディングの中断中にギタリストSteve Cropperの何気ない提案で収録が決定した曲だ。当時原曲をほとんど知らなかったReddingは、スタッフがシングルから聞き取って作った歌詞カードに数回目を通しただけで本番に臨んだ状態だった。
 ボーカルの抑揚が見事な「Change Gonna Come」では自分らしいアレンジを意識して、偉大なSam Cookeに挑戦している。「Shake」は同じくCookeのカバーで、67年のモンタレー・ポップ・フェスティバルに出演した際に感動的なオープニングを飾ったナンバーだ。対して「Respect」は後にAretha Franklinが社会派な解釈を施して話題となる。Donald "Duck" Dunnのベース・イントロが印象的な「My Girl」や「I've Been Loving You Too Long」などは、Reddingの男としての優しさが表れた美しいバラードである。特に後者はシングル盤も大ヒットとなったが、再録された本作のバージョンでは円熟味がより増して感じられるのも驚きだ。
 カバー歌手としても作家としても別格の実力を見せつけた『Otis Blue』は、米国のR&Bチャート1位、そしてゴールド・ディスクに輝くロングセラー・アルバムとなった。本作の魅力は音楽ジャンルの枠を超えて聴く者の心を離さない。