見出し画像

Hugh Taylor – It's Up To You (1990)

 音楽一家で知られるTaylorファミリーの末弟であるHugh Taylorは、かねてからマサチューセッツ州のホテル・オーナーとして成功している。同時に、時おりバンドを率いてクラブで演奏をするシンガーでもあるが、それはRay Charlesをはじめとしたリズム&ブルースや、Dave Brubeckのようなポップなジャズが流れてきた彼の家風がそうさせるのだろう。
 1990年に発表された彼の唯一のアルバムである『It's Up To You』には、そんなTaylor家の音楽のエッセンスがはっきりと反映されている。本作で特筆すべきは、James Taylorをはじめとして、Alex、Livingston、Kateといった五人のきょうだい全員がレコーディングに参加した非常に貴重なアルバムである、ということだ。Hughはソング・ライターではないため、トラック・リストはすべてスタンダードやカバーで占められており、中でもRick Nelsonの名バラード「It's Up To You」はLivingstonが、Tom Waitsの「Ol' 55」は西海岸繋がりでJamesが、それぞれHughのレパートリーとして推薦したのだという。そう考えると「Get In Trouble」で聴かれる骨太なR&Bのサウンドには、たしかに長兄AlexやKateゆずりのテイストが聴いてとれる。
 「World Of Difference」や「What Kind Of Fool」ではきょうだい全員のコーラスが響く豪華なテイクで、「Ain't Nothin' But A Party」ではAlexとHughのロックンロール・デュエットを聴くこともできる。実は5人が一堂に会したセッションは本作だけだ。Alex亡きいま『It's Up To You』の余韻は深まりつつある。