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Gary Farr – Addressed To The Censors Of Love (1973)

 イギリスのビート・バンドThe T-Bones(アメリカのサーフ・グループとは異なる方)でリード・シンガーを務めたGary Farrが発表した何枚かのソロ・アルバムは、いずれもブルースを中心としたアメリカの泥臭い音楽に深い敬意と愛情を注いで作られてきた。73年の『Addressed To The Censors Of Love』は約束の地であるマッスル・ショールズで録音されたFarrの集大成のようなアルバムで、参加ミュージシャンは名うてのセッション・マンが揃っている。そしてもちろん、プロデューサーにはJerry Wexler。
 以前の作品を思わせるフォーキーな「Wailing Wall」やラテンっぽい「Mexican Sun」もあるが、Farrは本作をよりスワンプらしいアルバムに仕上げようとしている。George Terryのギターが素晴らしいロックンロール「Breakfast Boo-Ga-Loo」に始まり、「Faith What A Face」のぞくぞくするような男らしいリズムは親しみやすく、ノリがいい。語りのスタイルで歌われる「John Birch Blues」では、興奮したFarrが思わずマイクから遠ざかる様子もそのまま収録されている。一方「White Bird」や「Rhythm King」はしっとりとしたAORらしいサウンドがフィーチャーされた。
 前作と共通して、アルバムにはブルースの超有名な古典が一曲入っている。実直に歌い上げられるSlim Harpoの「I'm A King Bee」は、Farrのボーカリストとしての色っぽさとブルース・シンガーらしい力強さが反映されている。
 本作は当時は米国でしか発売されなかったスワンプ・ロックの傑作である。事情を知らなければ誰もがFarrを生粋のアメリカ人シンガーだと思ったことだろう。