見出し画像

Aaron Dilloway – Modern Jester (2012)

 Aaron Dillowayのアートワークには、しばしば誇張された人物の顔が描かれている。まるで無機物のような表情から意図や感情を読み取るのは至難の業だが、それはアルバムの中身にも同じことが言える。轟音のホワイト・ノイズや金切り声に似たテープループに彩られたサウンドは謎と神秘に満ちていて、LPの裏ジャケットに記された〈Every Second Of This Recording Contains Subliminal Messages〉という文言は、聴く者の不安に拍車をかけていく。
 『Modern Jester』はAaron Dillowayが2008年に発表していた4曲入りのカセットを2枚組のLPとして拡大したものだが、内容はほとんど異なるためまったく別の作品と呼んでいい。印象に残るテープのメロディが延々と繰り返される「Eight Cut Scars (For Robert Turman)」は、カセット版にも収録された重要作で、このアルバムの核をなす一曲だ。混沌としながらも絶え間ないグルーヴを湛えたこの曲に対して、「Body Chaos」のサウンドは名前の通り生物的な気まぐれさをはらんでいる。18分に及ぶ不快なダーク・アンビエント「Look Over Your Shoulder」と「Shatter All Organized Activities (Eat The Rich)」の暴力性は、Wolf Eyes時代のDillowayを思い起こさせる破壊的なセットだ。
 バラエティに富んだ作風とメリハリの効いた構成を鑑みれば、『Modern Jester』が多くのテクノ・ファンに傑作と讃えられることは驚くに値しない。この1時間6分に及ぶノイズの嵐はあなたの耳と精神を痛めつけるが、きっとそれ以上の喜びを与えてもくれるだろう。