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Deep Purple – The Book Of Taliesyn (1968)

 1968年、英国のロック・シーンにはもはや単なるR&Bのコピーにとどまらない表現が確立されつつあった。すでにサイケデリックすら飽和の時を迎えていたこの時代において、Deep Purpleはバロックやロマン派といったヨーロッパ音楽の伝統とヘヴィなギター・バンドのサウンドを巧みに両立することができた数少ない存在だった。
 クラシックの素養を持ったオルガン兼アレンジャーJon Lordが、この時代のバンドの要であることは確かだ。しかし本作を通して聴けば、5人のメンバーの誰が欠けても本作は成立ていなかったであろうことが分かるだろう。シングル「Kentucky Woman」で激しくドライブするNick SimperのベースとIan Paiceの地響きのようなドラム、大幅に拡大解釈されながらも「River Deep, Mountain High」をソウルたっぷりに歌い上げるRod Evans。そして極めつけは、ハード・ブルースから室内楽とのセッション(「Anthem」)までを見事にこなして見せるRitchie Blackmoreのギターである。
 「Wring That Neck」はライブの定番曲となっただけでなく、翌年にオーケストラ用に編曲されてアルバム『Concerto For Group And Orchestra』でも披露された、この時代における重要なナンバーだ。この曲は後にアメリカのグループIt's A Beautiful Dayによってパロディされたが、実はこれは先にDeep Purpleが「Child In Time」で彼らのフレーズを引用したことへの意趣返しでもあった。
 録音の日数の制約もあってか、このアルバムは意外にも半数近くのトラックがカバーで構成されている。しかし、それをものともしないLordのアレンジ能力と個性豊かなバンドの力によって、本作はプロト・プログレの傑作に仕上がっている。