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Henri Texier – Amir (1976)

 今やジャズ・ロックの伝説となっているTotal Issueの活動が終わったあと、Henri Texierはサイドマンとして活躍する傍らでベース以外の様々な楽器を習得した。初めての本格的なソロ・ワークを制作するにあたって彼が挑戦したのは、アルバムで使用するあらゆる楽器を自分一人で全て演奏することだった。
 Texierは多重録音を駆使してベースの持つ豊かな表現力を最大限に引き出している。そしてそれを下地に、アフリカのコーラスにインスパイアされたスキャットや、神秘的なフルートの音色を盛り込んで真に無国籍風といえる独自の世界観を築きあげた。また、時おりギターのようなメロディが聴こえるが、これはウードという中東地域の伝統的な楽器によるものだ。
 ドローンを取り入れた「Le Sage, Le Singe Et Les Petits Enfants」のイントロではフルートが尺八のような音色で響き渡り、後半ではピアノやドラムが入り乱れた呪術的なフリー・ジャズのセッションが始まる。ベースを弾きつつの攻撃的な唸り声にはCharles Mingusの影響も見てとれる。ラストの「Quand Tout S'arrête」は楽器を手放し、自分の声だけでアルバムを締めくくっている。
 実験的なアートワーク写真も印象的だが、これは90年代のユニットRomano, Sclavis, Texierのアルバムでもコラボしている写真家Guy Le Querrecによるものだ。