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Charlie Watts – Live At Fulham Town Hall (1986)

 オルタナティヴ・ロックの席巻する1980年代に30人以上のジャズマンを擁する超ビッグ・バンドを結成する、というとんでもない事業を成しえたのも、大物Charlie Wattsならではである。〈夢を金で買ったようなものだな〉とWattsはうそぶきこそするが、彼のジャズへの愛情の深さは並々ならぬものがあって、それは妥協のないセット・リストや、きらびやかなスイングの美学を凝縮した演奏によく表れている。オーケストラには新旧を問わないUKジャズの気鋭たちが集まっており、Alan SkidmoreやEvan Parkerといったベテランから、当時まだ20代前半だったCourtney Pineまで幅広い。さらにはJack Bruceがチェロで参加するといった驚きの人選もある。
 Lester Youngの名を冠した名曲「Lester Leaps In」ではテナー・サックスの力強さを、一方「Moonglow」ではLionel Hamptonを思い起こすヴァイヴの流麗なイメージを的確に引き出すWattsは、まさに理想のバンド・リーダーだ。「Scrapple From The Apple」は他ならぬCharlie Parkerのナンバーだが、本作ではDave GreenとRon Mathewson両名によるベースだけで披露するという意外な展開を見せてくれる。
 アルバムはBenny Goodmanの「Stomping At The Savoy」に始まり、Hamptonの「Flying Home」で終わる。どちらも戦前から受け継がれる古典中の古典で底抜けの楽しさがあふれており、特に後者におけるラスト1分間の熱狂的な盛り上がりは特筆に値する。オーケストラの結成はロック・ファンに驚きをもって受け入れられたが、Wattsのルーツがジャズ・ドラマーであることを20年越しに証明するには、これは必要なことだった。