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Pat Martino – East! (1968)

 『East!』は、Pat Martinoの音楽に大きな影響を与えた東洋思想と、当時のプレスティッジが推し進めようとしていたソウル・ジャズの趣味が交わった最初のアルバムである。ジャズ・ギタリストには長い下積み時代を経験させられる者も多いが、若いうちから同レーベルに見出された当時のMartinoは、歯切れのよいシングル・トーンと機械のように正確なオクターブ奏法を武器に、2年のうちに4枚というペースでテクニックとセンスに満ちたLPを生み出している。
 冒頭のタイトル・トラックはスピリチュアル・ジャズの傑作で、ベーシストのTyrone Brownによって書かれた。もやの中を進むように静謐で浮遊感のあるオープニングから、ピアニストEddie Greenを交えて徐々に情熱的な技巧が飛び交い、崇高なほどのアンサンブルを展開する。
 だが意外なことに、このアルバムの残りは実直なハード・バップで構成されている。Martinoのオリジナル「Trick」はWes Montgomeryをほうふつとさせ、スピード狂の「Close Your Eyes」には彼の早熟の天才ぶりがこれでもかと言うほどに詰め込まれている。特に印象的なのはJohn Coltraneのカバー「Lazy Bird」で、洗練されたメイン・テーマのトーンから流れるようなソロへ導入される演奏は、コンパクトではあるが実に楽しげだ。誰かは分からないが、演奏に興奮したメンバーがシャウトしている声が聴こえるだろうか?
 Martinoの全盛期は、60年代のプレスティッジ期と70年代のミューズ期のいずれかに大別して議論されることが多い。『East!』は前者においては外すことのできない一枚だ。