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The Cyrkle – Red Rubber Ball (1966)

 バンドのルーツ自体はグリニッジ・ヴィレッジで華開いたフォーク・ムーブメントだが、60年代中期のThe ByrdsやThe Beatlesのような鮮やかなサイケデリック・ポップを聴かせるThe Cyrkleのアルバムは、ソフト・ロックの歴史をたどるうえでは決して欠かせない作品の一つである。
 NYのクラブで演奏していた姿が偶然Brian Epsteinの目にとまったおかげで、The Cyrkleはレコード・デビューのチャンスを得る。Epsteinはその時ステージで聴いた「Red Rubber Ball」(Paul Simonの筆による名曲)をプッシュし、プロデューサーのJohn Simonはこの曲を柔らかなサイケ・ポップに仕上げた。切ないながらも明日への希望を感じさせるこのシングル盤は全米チャートの2位を記録したのだが、奇しくもその時の1位は、同じくEpsteinがマネージャーを務めていたThe Beatlesの「Paperback Writer」だった。
 「Why Can't You Give Me What I Want」は徹底したサイケデリック・サウンドの中にも、持ち味である巧みなコーラスが光る。一方で「Cry」や「There's A Fire In The Fireplace」のようにタイトなビートや激しいギターがさく裂するナンバーを叩きつけてくる。特に後者は男女の愛を燃え上がるような炎に例えるような歌だが、〈Higher〉のワードを掛け声のように繰り返しているのは、当時としてはかなり過激な演出にも思えてくる。ヒッピーの陽気さをつめこんだような「Turn-down Day」は、「Red Rubber Ball」に負けない彼らのもう一つの代表曲だ。
 The Cyrkleはコロンビア・レーベルで2枚のアルバムを制作し、中規模のヒットを放った。そして解散後の70年にはフライング・ダッチマンから『The Minx』という映画のサウンドトラックが出ており、こちらは有名なコレクターズ・アイテムとなっている。これらはいずれも上質なポップ・ロックの逸品である。