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Ray Charles – The Great Ray Charles (1957)

 Ray Charlesという男を単なるシンガーとしてしか捉えないのは、実にもったいない話である。なぜなら、それは本作『The Great Ray Charles』のようなインストゥルメンタル・ジャズの傑作を見落としてしまうことに繋がるからに他ならない。
 Duke EllingtonやCount Basieがそれぞれ華やかな名演と名盤を繰り出し、戦後のキャリアを不動のものにしていた一方で、CharlesはQuincy Jonesのアレンジによる抑制の効いたバンド・サウンドをバックに奔放なスイングを聴かせる。プロデュースにはアトランティック・レーベルの伝説的な人物であるAhmet ErtegunとJerry Wexlerが携わっているが、Charlesにこうしたジャズ・アルバムを制作するよう積極的に促したのはNesuhi Ertegunの慧眼であった。結果的にアトランティックにはMilt Jacksonとの共演盤など、50年代の間に優れたジャズの録音が多く残された。
 「Bags' Groove」調のメイン・テーマにのせた「The Ray」などはとても上品に聴こえるが、「My Melancholy Baby」のラストの大仰な転調などは実にCharlesらしくて、楽しい気分になる。Horace Silverが書いた「Doodlin'」でフィーチャーされているDavid "Fathead" NewmanとJoe Bridgewaterの粋なホーン・ソロも素晴らしい。一方オリジナルの「Sweet Sixteen Bars」は完全なトリオでプレイされた、驚くほどに美しいナンバーだ。
 スイングの高揚とブルースの感傷のバランスがただただ見事なアルバムである。この2年後にはあの「What'd I Say」のファンキーなエレクトリック・ピアノが響き渡るとは、到底信じられない。