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Jim Dickinson – Dixie Fried (1972)

 60年代からメンフィスのシンガーとして活躍し、レコード・プロデューサーとしてはさらに成功していたJim Dickinsonだっただけに、72年にようやく発表されたアルバム『Dixie Fried』は彼の音楽のエッセンスを知るには格好の作品といえる。
 『Dixie Fried』に収録された曲は、カバーもオリジナルも含め、いずれもDickinsonにとってかけがえのないものだった。ロックンロール・ナンバーの「Wine」はもともと「Drinkin' Wine Spo-Dee O'Dee」、もしくは単純に「Wine, Wine, Wine」と呼ばれた曲だが、Dickinsonは高校時代からレパートリーとしていた。アルバム中で最も若々しく、思い切りが良いのもこの歌だ。ニューオリンズの独特なリズムが息づいた「O How She Dances」は、彼が20歳そこらの年でテキサス大学の音楽ライブラリから引っ張り出し、地元のステージで歌い継いできた思い出の一曲だという。
 Dickinsonのオリジナル「The Judgement」は、とても抽象的でつかみどころのない歌だ。だが、本作にBob Dylanの直截的な反戦歌である「John Brown」が収録されていることを踏まえれば、彼の秘めた意図がしっかりと伝わってくる。
 ギタリストのLee Bakerや、かつてのバンド・メンバーSid Selvidgeといったメンフィスの音楽仲間がもたらすサポートも、本作に漂うあたたかな雰囲気によく貢献している。「Louise」のカントリー風ボーカルや、Furry Lewisの古典「Casey Jones」のサウンドがひとたび流れてくると、まるでDickinsonたちが昔からの親しい友達だったかのように思えてくる。