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Duke Pearson – How Insensitive (1969)

 Duke Pearsonは1969年の意欲作『How Insensitive』で、ファンク、ラテン、アカペラといった様々な音楽を自身の繊細なピアノのメロディで統合した。その多彩ながらも芯の通ったサウンドは、来たるべき70年代のジャズ・シーンの方向性を個性的かつ挑戦的に示唆する。
 後世のリスナーに特に注目されるのはB面に収録された本格的なボサノバ・チューンで、特に「Sandalia Dela」、「Tears」、「Lamento」の3曲ではまだ無名だった頃のAirto MoreiraとFlora Purim(後に二人は夫婦となる)が参加した。躍動的なリズムと美しい歌声を得たPearsonのタッチには本格的なラテンの熱が息づいており、同時に言いようのない翳りもある。見事な人選を果たした彼の慧眼に喝采だ。
 もうひとつ注目すべきは、Jack Manno率いる重厚なコーラス隊〈New York Group Singers' Big Band〉をフィーチャーしたセッションだ。冒頭の「Stella By Starlight」はPearsonらしい静かなピアノ・ソロに始まり、スイング感あふれるコーラスが展開されていく。電子ピアノで奏でられる往年のヒット曲「Cristo Redentor」には大胆なアレンジが加えられた。重く荘厳な雰囲気を漂わせているが、続く「Little Song」では一転して軽妙なテイストを聴かせるのも憎い手腕だ。さらに「Clara」ではPearsonが巧みなフリューゲルホーンを披露するという意外なシーンもある。
 音楽のアレンジや人事の才覚が際立った『How Insensitive』は、一人のピアニスト、もとい音楽家の持つ色々な顔が見えてくるアルバムといえるだろう。