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Kelman Duran – 13th Month (2018)

 ドミニカ出身の音楽プロデューサーKelman Duranは、重たいダーク・アンビエントや歪んだサンプリングを使って、レゲトンの構造を根底から打ち壊す名盤『13th Month』を生み出した。前作『1804 Kids』ではまだかろうじて残っていたラテン・ダンス・ホール特有の熱気と陽気さは、本作では極限までそぎ落とされている。
 彼がアルバムの随所で用いているのは、かつてNYのラッパーThe Notorious B.I.G.が『Ready To Die』で放った死にまつわる独白だ。特に「Gravity Waves II」の冒頭では、若い先住民の自殺について語ったとされる長老のセリフと、このBiggieの重い言葉が立て続けに引用される。常に死が隣にあって荒涼とした空気が流れるゲットーと、ネイティブ・アメリカンの抱える陰鬱な社会問題が、中毒性の高いビートの中で絡み合うトラックはこれ以上なくダークな雰囲気に仕上がっている。
 10分超えの大曲が目立つ一方で、UKベースをほうふつとさせる「RARA」や「TU MUERE AQUI (Intro)」のようなダンサブルな作品もある。しかし、いずれも基調となっているのは執拗なまでの人声のサンプリングだ。全体のテイストはアブストラクトそのものだが、適度な軽さのある「Lento X Katana 1」に象徴されるように、レゲトンの味が損なわれていないのは見事な手腕としか言いようがない。