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Grachan Moncur III – Evolution (1964)

 1960年代中期のブルーノート・レーベルの大きな功績のひとつは、ハードバップとフリー・ジャズの架け橋となる作品をたくさん発表したことだ。同レーベルの中でも特に過小評価されているトロンボーン奏者Grachan Moncur IIIによる本作は、そのタイトルに恥じない前衛性と革新性を備えた、価値の高い一枚である。
 だが参加したジャズマンたちのメンツは、ともすればタイトルよりもっと雄弁かもしれない。Jackie McLeanとLee Morganのグルーヴィーなホーンや、Bobby Hutchersonの超然的なヴァイブの不気味な存在感が織りなす、静かだがただならぬコントラストは本作の根幹をなしている。また、Anthony Williamsの技巧的なドラムは「Air Raid」のホーン・リレーの熱狂を引き出しており、Bob Cranshawのアルコは「Evolution」の静謐さには絶対欠かせない要素だ。
 そしてMoncurの目論見は、最もアヴァンギャルドな「Monk In Wonderland」で最大の成果をなしている。Eric Dolphyの傑作『Out To Lunch!』を予見したような完璧な規律を持った演奏を成立させながら、Moncurのトロンボーンのなんとメロディアスなことか。
 意外なことにMoncurのリーダー作は、彼の豊かな創造性に反比例するように少ない。だがその事実を差し引いても、ジャズ史転換の潮目に位置する『Evolution』が貴重な存在であるという事実は変わらないだろう。