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心臓の穴が慢性頭痛の原因に? 〜卵円孔開存と片頭痛〜

こんにちは、ひふみです。
心臓には卵円孔という穴が空いていることはご存知でしょうか?
これは心臓において右心房と左心房の間の壁に空いている孔を指します。
胎生期でまだ肺呼吸をしていない時に動脈に酸素を送り届けるために空いている穴でして、生後は自然と閉鎖することが多いです。
しかし2割程度の成人はその穴が閉鎖しきれておらず、「卵円孔開存」と呼ばれます。
たとえ卵円孔が開存していたとしても多くの場合は無症状で、生きていて何の問題も起こさないことが多いです。

しかし、この卵円孔開存が片頭痛の原因になっているかも!
と最近言われていることはご存知でしょうか?

なんで心臓の穴が頭痛と関係あるのか、、
医師としても直感的に関連性はなさそうに思えるのですが、様々な過去の論文を見ていきますとどうやら無関係ではなさそうです。
岡山大学では卵円孔閉鎖による片頭痛の改善を目的とした治験も行われているようで、その効果は非常に興味があります。

ネットで見ましたと頭痛患者さんに卵円孔閉鎖について聞かれることもあるのですが、これまでの研究を踏まえた今の僕の見解を先にまとめますと、、

  • 卵円孔開存は片頭痛の原因の1つではありそう。

  • 卵円孔を閉鎖することで片頭痛の改善も期待できそう。

  • ただし現状は薬による治療を上回る有効性は確立していない。

  • 閉鎖術はカテーテルでの手術。一過性心房細動など合併症もある。また術後は抗血小板薬などハイリスクな薬剤をしばらく内服する必要がある。

  • そのリスクをとってでも卵円孔閉鎖がオススメされる片頭痛患者さん(卵円孔開存が頭痛の要因の大部分を占めていそうな患者さん)を選別する必要がある。まだそこを見極める指標はない。

  • 以上から現状では片頭痛患者さんに閉鎖術はオススメできないが、今後の発展にはすごい期待している。

といったところでしょうか。
以上の結論を踏まえ、卵円孔開存と片頭痛の関係性についてまとめます。



片頭痛と卵円孔開存の関係

過去に閃輝暗点などの前兆のある片頭痛患者の心臓を調べたところ、50%で卵円孔開存を認めたとのことです。
一般成人では20%なので明らかに片頭痛患者は卵円孔開存率が高いことがわかっています。
逆に卵円孔開存患者で見ると、一般人に比べてオッズ比3.21で高率に片頭痛を発症しています。
これは、単に併発しやすいだけなのか?それとも卵円孔開存が片頭痛の原因になっているのか?
疑問に思うところですが、どうやらやはり両者には因果関係があるようです。

何で卵円孔が頭痛の原因になるの?

心臓の穴が頭痛の原因になると言われても、直感的にはなかなか理解しがたいと思います。
最近の論文を見ますと、
シャント血流による血管内皮障害や血行力学的ストレス→血小板のトロンビン活性を高める→凝固能や酸化ストレスの亢進→片頭痛が惹起
ザックリこんな感じで頭痛が起こるようです。難しいですね。
片頭痛が酸化ストレスによって引き起こされるのは、様々な研究で明らかになっています。
前兆のある片頭痛患者は脳梗塞との関連も示唆されており、血液が凝固>線溶に傾いていることもわかっています。

少し、難しい話になりましたが一般の方にざっくりいうと。
「心臓の穴による血流の乱れが、血中の血小板を活性化させ、それが体内で色んなストレスを引き起こして頭痛になる。」
といった感じでしょうか。

最近STROKEという権威ある雑誌で発表された論文では、
片頭痛+卵円孔開存患者は頭痛のない卵円孔開存患者よりも、卵円孔内での血栓や内皮障害を高率に認めた。
との報告があります。
やはり内皮障害や血栓をどう防ぐかというのが、片頭痛+卵円孔開存患者のポイントになるのでしょう。

片頭痛+卵円孔開存への治療

卵円孔閉鎖術

卵円孔が開存していることが悪さをしているっぽいので、卵円孔を塞いでしまおうという手術があります。
これは卵円孔閉鎖術と呼ばれ、循環器内科の先生にカテーテルを使って行ってもらいます。
卵円孔開存と片頭痛の関係性が言われだしてから国内外で様々な観察研究が行われ、卵円孔閉鎖後、片頭痛患者の8~9割が症状改善したとの報告がなされました。
素晴らしい結果ですが、エビデンスレベルの低い報告ばかりでしたので、2010年前後にRCTという比較試験がいくつか行われました。
このRCTで卵円孔閉鎖が効果あり!となればいよいよ片頭痛治療の選択肢に仲間入りするとことでしたが、
結果としては「効果なし〜あってもわずか」みたいなとても微妙な結果でした。

卵円孔閉鎖術のデメリット

卵円孔閉鎖術自体はやり方が確立しており、大方安全に治療ができます。
しかし心臓を扱う手術であり、リスクもゼロではありません。
卵円孔閉鎖術後に一過性の心房細動という不整脈が出現することがあります。
また手術は無事に終えても、術後しばらくは抗血小板薬というハイリスクなお薬を飲まなくてはいけません。

また、一部は閉鎖術後になんと逆に片頭痛が悪くなる人もいます。
これは人工物を血中に留置することで逆に血栓傾向が強くなるためとも言われており、だいたい5~10%くらいの頻度で悪くなるようです。

現状、卵円孔閉鎖術は推奨されていない。

以上より卵円孔閉鎖術は微妙な効果しか得られず、一方で手術に伴うリスクや逆に悪くなるパターンもあります。
片頭痛患者さんが卵円孔開存していたらみんな塞ぐというのは現状世界中で推奨されていません。

抗血小板薬が片頭痛を改善させる?

2018年にNeurologyというこれもまた権威のある雑誌で、
抗血小板薬(P2Y12阻害薬)が卵円孔開存+片頭痛患者の頭痛を軽減した
と報告されました。
これはクロピドグレルプラスグレルといって日本でも脳梗塞や心筋梗塞などに使われている薬ですが、普通は頭痛には用いません。
不思議にも思えますが、卵円孔開存による頭痛が血小板の活性化によるのであれば納得のいく結果と言えます。
ただし、先ほども述べたように抗血小板薬は脳出血や消化管出血などの致命的なリスクもあり、頭痛があるからといってこれも気軽に処方できるものではありません。

どのような患者が卵円孔閉鎖術による片頭痛の改善を期待できるか?

頭痛患者さんの頭痛が悪くなる要因は人それぞれです。
もし卵円孔開存による影響がその患者さんの頭痛の要因の大部分を占めているのであれば、それは卵円孔閉鎖をする価値があるでしょう。
その卵円孔開存が血管内皮障害や血小板の活性化を引き起こしている根拠が明確にあり、他の薬でどうにも頭痛がよくならない場合は閉鎖術による効果が期待されます。
ただし、現状その根拠を指し示す指標はありません。
私見ですが、形態的にハイリスクな卵円孔と画像で選別された患者やクロピドグレルの著効する頭痛患者など、閉鎖術による効果を期待できる患者さんを抽出していくことが求められるかなぁと思います。

卵円孔閉鎖術が難治性片頭痛患者の切り札になるのか。
これは今後の医療の発展に期待ですね。

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