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セマグルチドとNAIONの関連性について

今回は、JAMA Ophthalmologyに掲載された最新の研究「セマグルチドと非動脈炎性前部虚血性視神経症(Nonarteritic Anterior Ischemic Optic Neuropathy;NAION)の関連性について」をご紹介します。この研究は、急速に普及しているグルカゴン様ペプチド1受容体作動薬(GLP-1 RA)のセマグルチドとNAIONの関連性を調査したものです。

研究の背景

非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)は、視神経に血液が十分に供給されないことで発生する病気で、視力の急激な低下を引き起こします。
NAIONの発症率は10万人あたり2~10例であり、これは緑内障に次いで視神経損傷による失明の2番目に多い原因となっています。本研究は、セマグルチドの使用とNAIONの発生に関連性があるのではないかというところからスタートしています

研究の目的

この研究は、セマグルチドとNAIONの間に関連性があるかどうかを評価することを目的としています。ただし、この研究のデザイン上、因果関係を明確にすることはできません。

研究の方法

研究者たちは、セマグルチドを使用した患者とNAIONの発症例についてデータを収集し、その関連性を分析しました。特に、国際疾病分類(ICD-10)の診断コードを使用してデータを解析しましたが、NAIONに特化したコードがないため、虚血性視神経症というより広いカテゴリーのコードを用いました。

研究の結果

結果として、セマグルチドとNAIONの間に関連性があることが示唆されました。しかし、40%の虚血性視神経症のケースは実際にはNAIONではなく、巨細胞性動脈炎による動脈炎性虚血性視神経症やその他の虚血性または非虚血性視神経症でした。

Figure2 Survival Analyses for  

Cox回帰分析によると、セマグルチドを処方された2型糖尿病および過体重または肥満の患者におけるNAIONのリスクは、それぞれ4.28倍および7.64倍と、他の治療薬と比較して大幅に増加していることがわかりました。

考察

この研究は、セマグルチドとNAIONの関連性を初めて報告したものです。629例のNAION症例を6年間にわたり収集し、すべての診断は経験豊富な神経眼科医によって行われました。手動によるレビューにより、セマグルチドを処方された患者がNAIONを発症したことが確認されました。さらに、Cox回帰を用いて関連性をより正確に推定し、プロペンシティスコアマッチングを用いて選択バイアスを減少させました。

糖尿病治療への影響と展望

セマグルチドは、2型糖尿病の治療において非常に有効な薬剤であり、多くの患者にとって血糖コントロールを改善する重要な役割を果たしています。特に肥満合併の2型糖尿病では広く用いられています。

しかし、今回の研究結果は、糖尿病治療におけるセマグルチドの使用について新たな課題を提示しています。NAIONのような稀な副作用のリスクを評価し、安全性を確保するためには、さらなる研究が必要です。

2023年4月時点で、最初の2つの注射可能なGLP-1 RA薬(OzempicとWegovy)は、米国での新規処方の数で1位と2位を占めており、2023年の多くの期間で米国の全患者の1.7%がセマグルチドを処方されていました。このデータは、GLP-1 RA薬の使用が増加するにつれて、NAIONの症例も増加する可能性があることを示唆しています。

セマグルチドは、2型糖尿病の治療において非常に有効な薬剤であり、多くの患者にとって血糖コントロールを改善する重要な役割を果たしています。しかし、今回の研究結果は、糖尿病治療におけるセマグルチドの使用について新たな課題を提示しています。NAIONのような稀な副作用のリスクを評価し、安全性を確保するためには、さらなる研究が必要です。

セマグルチドは視神経に対する保護効果があるとされていますが、GLP-1受容体の発現や交感神経系の活動増強が視神経頭部の血流に影響を与え、NAIONのリスクを増加させる可能性があります。

結論

セマグルチドとNAIONの関連性を明確にするためには、さらなる研究が必要です。特に、ICD-10コードの精度を向上させる新しいアルゴリズムの開発や、手動によるデータレビューが重要です。しかし、NAIONのような比較的まれな疾患に対する薬物使用との関連性を統計的に証明するためには、これらの手法だけでは不十分かもしれません。

終わりに

今回の研究は、セマグルチドとNAIONの関連性について新たな視点を提供するものでした。今後もこの分野の研究が進むことで、より明確な結論が得られることを期待しています。特に糖尿病治療におけるセマグルチドの安全性と有効性を確保するために、さらなる研究が重要です。

非常に稀ですが、失明の原因疾患であるため今後も議論が続くことが考えられます。アルツハイマー病に対してGLP1RAが有効である可能性があると期待されていたところでしたので、しばらく安全性についての検討は続きそうですね

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