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その62 訓練と食事

 いわゆる摂食嚥下障害で口から食べられない状態の方がいたとします。胃ろうやIVHなどを利用して栄養補給している方が、「やっぱり口から食べたい」と訴えると地域の食支援チームが動き出します。そして一致団結して「この方に口から少しでも食べてもらいましょう!」といって始まります。食べる機能の評価があり、少し行けるようなら「まず、ゼリーから食べていきましょう」などということになります。

 この「ゼリーから食べていきましょう」は個人的にはあまり好きではありません。間違いとは言いませんが、そういうことかな?とも思います。

 例えば本人が、「肉を食いたい!」と言った時。ゼリーから始め、次はミキサーにしたものになったり…と少しずつステップアップを考えることがほとんどです。で、いつ肉に到達するのでしょうか。禁飲食になるような方が健常と同じ機能を獲得するのは至難の業です。その中で、本人も望まないゼリーから食べ始めて本人のモチベーションは上がるでしょうか。

 実は、直接食べることで怖いのは嚥下ではありません。窒息です。口腔環境を整えたうえでスプーン一さじを多少誤嚥したとしても大きな影響はありません。もちろん機能によりますが、最初から本人が食べたいというものを、その方の機能に合わせた形で提供すればいいのではないでしょうか。誰もかれもがゼリーではなく。

 「肉を食いたい!」とはっきり意思表示された方に、最初からハンバーグをひとかけら食べてもらったところ、多少むせながらも「うめぇ!」と叫びました。その1か月後にはやわらかい食事を口から食べられるようになった方がいます。

 ゼリーから始めることは訓練であって食事ではありません。ゼリーから徐々に始めてステップアップした先に少しでも口から…というのは周りのエゴです。本人にとっては好きなものを食べることが食事です。食べられないのであれば訓練もしたくありません。段階は全て知ったうえで現場ではその常識を壊していくこと。それが生活を支えることです。

 ゼリーから始めることは訓練であって食事ではありません。本人にとっては好きなものを食べることが食事です。段階は全て知ったうえで現場ではその常識を壊していくこと。それが生活を支えることです。

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