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最期まで口から食べられる人

最期まで口から食べられるために何をすればいいのか。そんなことを聞かれることがある。もちろん、思いがけない病気や障害で食べられなくなることもあるだろうが、基本的には3つあると考えている。最期まで口から食べたいと思っている方は多いはずだ。20年以上食の現場を見てきた歯科医師として、そして食支援研究家としての私の意見だ。

 1つめは、口の機能を低下させないことだ。いろんな口腔体操や健口体操などちまたに溢れている。もちろん有益だ。ただ、どれも体操なので継続することが難しい。ラジオ体操で挫折した人にはわかるはず。何かの楽しみや毎日のルーチンとして行い、継続できれば効果はあるだろう。

日本歯科医師会HPより

 ただ、本当に口から食べる機能を維持しておくために必要なことは体操ではない。毎日しっかり噛んで食べることだ。体操はそれへの補完と考えるべきだ。

 もう1つは、社会的な生活を送ること。わかりやすく言えば、引きこもるなということ。実は15年ほど前、東京都新宿区で私たち新宿食支援研究会と大久保病院(新宿区、当時都立)とのコンソーシアムという形で補助金を頂き、高齢者の食に関する聞き取り調査をしたことがある。いくつかの結果が出たが、最終的な結果はシンプルだった。「最期まで口から食べている人は外で食べている」ということだった。つまり、外に行ける気力や体力がある人、外に行く楽しみがある人、外で会える友だちがいる人である。

 上記2つは、当然そういうことだろうなぁと思う。そして3つめは、私個人が考えていることである。3つめは…スキな食べ物が言える人。試しに聞いてみればいいと思う。高齢者でなくていいので、誰か知人に「スキな食べ物は?」と。ご主人に聞いたら「別にない」と言われるということもあるだろう。逆に女性の友人に聞いたらたくさん挙げすぎて止まらないかも知れない。今の時点で好きなものが挙げられないということは食に関心が薄いということ。その方が高齢になり、食べる機能が低下し、意欲がなくなってきた時、何とか口から食べたいと思うだろうか?

 私の食支援の現場の話。ご家族が、ご本人に口から食べてもらいたいという希望があって介入することがある。そしてご本人に「何が食べたいですか?」と聞くことがある。すると「マグロ」とか「肉」と言う方もいるが、「特にない」とか「なんでもいい」と言われる方もいる。どちらが食べられるようになるかは明らかだ。
 想像に難くないことだが、女性からは食べ物や料理名が挙がり、男性は…「特にない」と言われることが多い。

 ちなみに私は食支援研究家であるとともに酢豚研究家でもある。初めていく中華料理屋では酢豚一択。酢の加減や具材の大きさ、切り方、種類、肉の仕上げ方、柔らかさ、そして味の浸透度。気づけば色んなところが気になるようになっていた。これまでは高田馬場、石庫門が一押しだったが、今は芝パークホテルの酢豚が人生No.1だ!これまで行った店の変化もあるし、新しい店の発見もある。酢豚人生、楽しみである。

芝パークホテルの酢豚定食

 結論は1つ。毎日の食事で食を楽しむこと。最期まで口から食べられるためにできることはこの一択と言ってもよい。次の食事を楽しもう。それが「最期まで口からたべる」唯一の手段だ。

#口から食べる

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