医師のキャリアアップを考える:番外編2・専門医取得の意義
今回は医師のキャリア形成の中での専門医を取得することの意義を書いてみたいと思います。
医療現場での専門医が持つ意味
専門医とは自身が専門とする領域を標榜する意味でその名称から明確なものではありますが、取得した専門領域における診療能力を万人が認めた、とまで言えるものではありません。
私を含めた医療人の感覚は
「学会が認定した教育施設で、専門医として経験すべき最低限の症例数・治療経験を積み、忙しい合間を縫って必要最小限の学会発表や論文執筆をし、癖のある上司(多種多様、という意味で)のもとで臨床経験を積むことができた」
ことの証明だと思っています。
言い換えれば、
専門医の肩書きはかならずしも専門領域に関する診療能力の証明にはならないが、決められたカリキュラムを完遂できるその行動力は確認された、という意味では非常に大きな意味を持っていると思います。
専門医の取得による医療施設への貢献
専門医とその上位の関係にある指導医の取得は診療に関するものだけにとどまりません。新たに専門医を取得する専攻医を受け入れる施設として認められる基準として、専門医・指導医が常勤として在籍していることが必須である場合が多いです。
つまり、専門医の取得は自分のためだけではなく、勤務先である病院が専門医を養成するための施設基準を満たすために必要な要素であり、勤務先の病院のため、場合によってはその病院への派遣元である出身医局のためでもあるわけです。
現在の専門医制度
現在の専門医制度は2018年に始まりました。日本専門医機構が認証した主要19領域のプログラムのみで専門医が養成されています。
この専門医制度により、以前のように症例数が多い一般病院に在籍するだけでは専門医を取得することは難しくなっており、多くの専攻医(専門医取得を目指す医師)は大学病院のような専門医取得のためのプログラムを持っているところに一時的にでも所属をすることが多いと思います。
機構が認証するプログラム自体が大学病院クラスの施設基準を求めることでこのような現象が起き、制度開始当初は「大学医局への若手医師の揺り戻しプラン」と言われた時期もありました。
この制度設計には賛否両論ありますが、臨床能力だけではなく、学会での発表や論文作成など、アカデミックキャリアも同時に身につけるべき(もちろん大学医局だけがその指導が受けられるわけではありませんが)という機構側の姿勢も垣間見えます。
専門医取得のメリット
専門医を取得したことにより、勤務医の待遇・報酬が極端に上がることは一般的にはありません。
しかし、転職をする際に自分の専門性を説明したり肩書きに記載することで、入職時の契約交渉を優位に進めることは十分にあり得ると思います。
個人的には、忙しい臨床の合間に学会活動を行った結果として自分の専門性を自分自身で確認することができた、といったアイデンティティーとしての役割も大きかったかもしれません。
このあたりは人によって捉え方は変わるかもしれませんね。
専門医取得後の更新について
専門医取得にくらべて、概ね5年ごとに必要となる更新作業はそれほど大変なことではありません。
現在外科系医師は、NCDといって施設ごとに手術症例の全例報告制度をとっており、外科専門医更新の際はそのNCDのフォーマットにそって更新に必要な書類を作成すればよく、以前のように過去の症例を引っ張り出して症例数のカウントをする必要もありません。
ただし、当然ながら必要な症例数をこなしていなければ専門医更新はできなくなるため、少なくともNCD登録をおこなう中規模以上の病院に勤務していることが必須です。
今後の専門医取得について思うこと
専門医取得を目指す若い医師の人たちにとって、その課程を自分の成長のプロセスに感じられるかどうかが非常に大事なことだと思います
それは我々世代の指導もさることながら、これからどのような専門性を持った医師を育てていくかを医療界全体で考えていくことだと思います。
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