見出し画像

あとぴくんの物語2(解説編)

あとぴくんから,アトピー性皮膚炎という病気をきりはなして考えるための4つのステップ

 前の記事で,あとぴくんから,アトピー性皮膚炎という病気を切り離して考えることが,あとぴくんにとっても,お母さんにとっても大切なことであることをお伝えしました.

 ここでは,その具体的な方法について,4つのステップにわけて説明していきます.

STEP1 気をつけるのはアレルゲンだけではない

 「先生,この子のアレルギーは血液検査ですべて調べてあって,ダニもほこりも花粉も世界最強レベルの空気清浄機 - Airdogで排除できていますし,食べ物も無添加,カップラーメンも食べさせていません!それでもアトピーがよくならないのは,この子が夜中までスマホをみて不規則な生活だからですよね,そうですよね?この際,先生!すべてのアレルギーを調べてください!」

 よくある,診察室の風景です.
 
 アトピー性皮膚炎の皮膚炎が悪化することを「フレア」といいます.私の皮膚はよく,前髪や,汗で,おでこが真っ赤になり皮膚炎が起こります.これは,フレアです.

 中には汗が本当にアレルギーの人も,ごくまれにいます.しかし,前髪で皮膚炎は,どうかんがえてもアレルギーではありません.

 以前の記事でも述べたとおり,例えば,アクリルもフレアを引き起こします眠気も睡眠不足もそうです.多くの人は,冬から春にかけて,何もフレアの理由がないのに,なぜか皮膚炎が悪化することを経験し,季節もフレアの理由になるのかと気づきます.

 そうです,アレルゲンばっかりに気を取られて,それさえコンプリートすれば,その子のアトピーは治ると信じていると,うまくいかない場合が多いです.

 もちろん,猫アレルギー,犬アレルギーの子が,猫,犬と同じ家の中で生活していれば,皮膚炎は右肩上がりに悪化しますよ.刺激反応より,アレルギー反応のほうが反応は強く,そして徐々に強くなります.

 考えてみればそれは,敵とみなしたアレルゲンに対する,体の正常な免疫反応ですから,排除されなければどんどん強くなるのは当たり前ですし,非常に精巧につくられた防衛システムの証明ですね.

 以下の論文報告では,刺激反応(誰でも一定の量と時間が暴露されると,排除システムが発動する反応)アレルギー反応(敵とみなされた場合のみ,少量の暴露であっても効率的に排除システムが発動する反応)は,分子レベルでやはり違うものであることを言っています.

Vittorio F. at al.: Machine-learning-driven biomarker discovery for the discrimination between allergic and irritant contact dermatitis, Proc Natl Acad Sci, 33474-33485, 2020

 STEP1のポイント
 皆さん,アレルゲンはよく知っているので,非アレルギー性の刺激反応にこそ目を向けて,その子に影響を与えている刺激を少しでも排除できるように努力することが大切です.

STEP2 原因と悪化因子をわけて考える


 アトピーが悪化する理由のことを「悪化因子」または「誘因・要因」などと言葉を区別すると,理解が深まります.ここでは,悪化因子に統一したいと思います.

 「悪化因子」= フレアの理由(皮膚炎が悪化する理由)

 ではここで,問題です.それなら,アトピー性皮膚炎の原因はなんですか?アレルゲンじゃないんですか?(アトピー性皮膚炎の原因)

 これが理解できない間は,アトピーを理解することはできません.

 アトピーとつきあうための,「作法」だと思ってください.

 日本の家に外国人を招いたら,靴を脱がずに家に入られ続けたらどう思いますか?海外でサービスをうけて,チップを渡さずに過ごし続けたらどう思われますか?

 まずここを,頭だけでいいので,理解をしてください.

 STEP2のポイント
 皆さんが,原因原因と言って血眼になって探しているのは,「悪化因子」の一つでしかないので,肩の力をぬいてひとつずつ一緒に探して,排除できるならしてあげて,できないならそれを少しでも減らしてあげる努力をしてください.

STEP3 アレルギーはうまれつきではない


 もちろん,アレルギーはないに越したことはありません.

 でもアレルギーって,生まれた時からあるわけじゃないこと,アレルギーになってしまう(感作(かんさ)といいます)メカニズムがわかってきたことをご存じでしょうか.

 ここは,小児科の先生たち(日本の先生たちが主力)が頑張ってくれてわかってきた領域です.本当にすごい!

 例えば卵アレルギーに感作する理由は,卵が離乳食で口のなかに入り,腸管から吸収される過程で免疫寛容が誘導される前に,皮膚炎が生じているところから卵が侵入してしまい,感作が成立してしまう場合に,卵アレルギーが発症します.

 簡単にいえば,口の中より先に,皮膚からアレルゲンが入ってしまうと,アレルギーになってしまうよということです.

 それが解明されたことから,現在,皮膚炎を治療しておくことで,アレルギーが予防できないかという試みがすすめられ,ある一定の割合においてそれが実証されています.(ものすごく劇的ではないところが,まだミステリアスです)

 STEP3のポイント
 ずっと残っている皮膚炎の部分から,いろいろなアレルゲンが感作され,アレルギーが発症してきている可能性がある.乳幼児期でも,大人でもメカニズムはきっと同じ.

STEP4 治らない最大の理由は「快感」


 突然,何を言い出しているのかと,そのような声が聞こえてきそうですが,アトピーさんでない人は,かゆいなぁと思って数回かくと,嫌な感じや痛みがでて,かく手が勝手にとまりますよね.

 でも,アトピーさんの場合,数回かいていると止まるどころか,どんどんかいて血が出ていよいよ痛みがでてくるまで,手が止まらないことを経験します.

 私が新薬であるデュピルマブを打った時に,何よりも一番に感じたのは,この快感を取り去ってくれることが,どれほど大きな影響をもつかということでした.

 かいても手が止まるので,皮膚炎もそれ以上広がらないし,これ以上かいたら大変なことになるという不安もなくなり,今までは,皮膚を保つために,毎日,綱渡りのようなスキンケア生活だったものが,その緊張の糸を少しずつ緩めることができていきました.

 今では多少,風呂上りのスキンケアをさぼろうとも,当直後に皮膚がフレアを起こすこともなく,長期に出張してもへっちゃらです.

 そして,新薬がこの快感を抑えてくれることを実感して再確認したことは,この快感はやはり,異常なものであったということでした.

 調べてみると,日本の研究者の方ですが,かゆいところをかいているときに働く脳の場所が,依存性のある快楽と同様の場所ということを証明しています.

 つまり,アトピーさんのかゆみは,経験した人しかわらない,いわば,かゆみ依存という病的状態であると思うのです.

 さて,これを,こどもの理性だけで,止めることができるのでしょうか.それは絶対にできません.

 大人でもさまざまな依存症に専門的な治療が必要なのに,どうしてこの依存症だけは,その子の心のせいにされるのですか?

 どうか,そのつらさを知らない人が,簡単に「かいちゃだめ」といわないであげてください.

 その子が誰よりも,かいちゃだめなことを知っています.

 チョコレート大好きな女子の目の前にチョコレートを置きます.食べる寸前に「食べちゃダメ」と言われる,一口かじった後に「食べちゃダメ」と言われる.

 お酒大好きのお父さんの前にビールを置きます.1週間の仕事の終わりに,かんぱーいの後「飲んじゃダメ」と言われる,一口ごくりの後に,「飲んじゃダメ」と言われる.

 ショッピング大好き女性の前に,普段は高くて買えない欲しかったカバンが,信じられないくらいに安くなって,残り1個限定品.買おうと思ったら,「売り切れました」と言われる.

 種類は違えど,脳が感じている快感は同類のものだそうです.

 セロトニンではなく,ドーパミンの欲求.

 STEP4のポイント
 アトピー性皮膚炎のかゆみは,依存症などの病気の状態に似ているため,気合だけでなんとかなるような代物ではない.

STEP5 そして,アトピーをきりはなして考えてあげる

 「ほんとうに困ったかゆみだね,どうしたらいいんだろうね」

 問題を共有して,一緒に考えてあげてほしいのです.

 つらさを経験しているパートナー(親もアトピー)なら,きっとつらさをわかってあげられるはずです.

 でも,そうではなくても,頭で理解し知ることと,自分の経験の中で似ていることに置き換えることで,すこしでも理解してあげられれば,

 言葉は不要かもしれません.

 必ず,その雰囲気は,その子には伝わります.

 今思えば,幼少時の私が何よりつらかったのは,きっと「周りに,このつらさをわかってくれる人がいなかったこと」だったんじゃないかと思います.治らないことは経験上わかっている,解決策がほしかったわけではない.
 
 人生には,どうしようもないつらいことが,少なからず起こりますし,解決できるもの,そうでないもの,ずっと背負い続けないといけないものがあります.

 そばにいてくれる人が,それを本当の意味で,わかってくれているだけで,それだけで救われることも,きっとあるのだと思います.

 そして最後に,アトピー性皮膚炎の人たちにむけてのメッセージです.

 そうやって寄り添ってくれる人がいる人は,本当に幸せだと思います.そして,そんな幸運な人たちばかりではないこともわかっています.そして,大人になれば,誰しもが,他者に甘えることはできません.

 アトピー性皮膚炎という病気を切り離して考えるということは,その患者本人にも言えることです.

 自分が悪いわけじゃない,こういう病気なんだと自分を客観視して,冷静に俯瞰できるようになれるといいです(なかなか簡単ではないですね,わかってます).

 もう一度言います,あなたは悪くない,そして弱くもない.

 医療や薬は進歩します.それでも遺伝子まで変えることは現在不可能です.

 でも私たちは,この体で進んでいかなくてはいけません.

 今生きている時代の医療や薬をうまく選択肢に入れながら,どう生きるかを選択する.

 少しでも,そのお手伝いができたらと思っています.

 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?