Y Combinator S23:ヘルスケアスタートアップ分析
先日行われたY Combinator Summer 2023バッチのデモデイ。200社強のうち10%(24社)がヘルスケア関係ということで、どんな領域が注目されているのか、どんなトレンドが見えてくるのか、各社を簡単にまとめて分析してみました!
最多のトレンドは業務効率改善系
今回24社のうちなんと半分の12社が業務効率改善系(=医療機関における臨床以外の事務作業等の効率改善)のスタートアップでした。業務効率改善関連の資金調達額が増えてきていることは以前から言われていました。下記図でも、3段目の"non clinical workflow"の調達額が2020年から2022年にかけて9→7→3位と年々ランクを上げていることがわかります。
背景として考えられるのは、
① コロナ禍を経て医療現場の人手不足の深刻さが増している
② AIの活用が進む中、相対的にAI導入のハードルが低いのは臨床・人の命に関わることが少なく、かつ規制の問題も少ない非臨床の業務改善領域
の2点です。このような流れもあって、今回Y Combinator選抜スタートアップでもこの領域が目立つのかなと思います。
こちらのカテゴリーについては、日本と前提となる医療制度が違うこともあり、個社別の説明は割愛して簡単にトレンドのみご紹介します👉
診療領域特化SaaS
特に多かったのは、特定の診療領域向けのSaaS的な業務支援ツール。集患、予約管理、保険関連業務、患者データ解析等を行うことで売上成長に貢献します。例えば、Flair HealthやHealthtech 1などはプライマリーケアクリニック向け、Simbie Healthは女性の健康を支援するNurse practitioner向け、Sohar Healthは特に精神科のクリニック向けに特化したツールをそれぞれ開発しています。他にも、薬局の業務支援に特化したWattson Health、リハビリ施設などに特化したShasta Healthなども今回のバッチに登場していました。
保険業務支援ツール
続いて多かったのは保険業務の支援をするツール。アメリカの保険制度は複雑なので医療機関の事務作業の大きな割合を保険関連業務が占めています。これを効率化することはまさにAIやテクノロジーの活用どころでしょう。公的保険メディケイドの登録を支援する患者向けサービスFortuna Health、カルテ記載内容を保険申請書類に変換してくれるDecoda Health、GenAIを使ってクリニックの代わりに保険会社に電話して償還業務を進めてくれるHealth Harborなどが今回のバッチの例として挙げられます。
コンシューマー向けサービス
最後のグループはコンシューマー・患者向けサービス。アメリカでは病院に行った後も保険請求が数か月後に来るまで費用がブラックボックスであるという事情があり、事前に医師×推定請求額を計算してくれるCertainly Healthというスタートアップが登場していました。正確性次第ですが、これは患者的にはかなりありがたいサービスかと思います。他には、UK発の正しい医療情報の検索サイトMediSearchなどがありました。
デジタルヘルス領域は疾患特化プラットフォームが目立つ
以前よりnoteやニュースレター等で特定の疾患領域に特化したデジタルヘルスプラットフォームが増えてきていることには触れていたのですが、今回のバッチでも引き続きその傾向は顕著にみられました。下記にご紹介👉
Empirical Health
"プロアクティブなプライマリーケア"に特化した予防医療プラットフォーム。Apple Watchとの連携も7月に発表されており、比較的注目度が高いスタートアップです。現在カリフォルニアなどの9州で、月額$9のサブスクフィーを支払うことで、アップルウォッチの健康情報の解析に加えて、医師の診察、検査、処方、高度医療機関への紹介等が受けられるとのこと。特に注力している疾患領域はApple Watchでの測定とも相性が良い心疾患や呼吸時無呼吸症候群など。いまはD2Cサブスクモデルですが、慢性疾患のvalue-based careプラットフォームを目指しているとのことなので、保険償還など今後のB2B戦略が気になるところです。なお、CEOの前職はウェアラブル×心疾患領域でa16z等から調達していたスタートアップCardiogramのファウンダーであり、こちらの経験もApple等との提携・事業開発には大きく影響していると思われます。詳細な記事はこちら。
Elythea
妊娠中のリスク因子を事前に解析してくれるAIを開発中。周産期には産後出血、切迫早産、妊娠高血圧など、母児に命の危険が及び、医療費も高価になってしまうようなリスクが数多くあります。電子カルテと連携し患者のデータを活用することで早期に個別化されたリスク因子を特定し、出来るだけ早く介入できるようなプラットフォーム開発を目指しています。
LifestyleRx
2型糖尿病患者向けに保険適用のオンラインケアを提供するカナダのスタートアップ。12週間のプログラムで医師とのオンライン診療、週1のグループセッション、糖尿病マネジメントについての教育動画+簡単なテストなどを行い、ユーザーは正しい生活生活習慣を身につけることを目標としています。
Obento Health
医師に対し、診察した患者さんにどのようなウェルネス製品が推奨されるか自動で提案してくれるプラットフォーム。特に最初はリハビリ・整形外科クリニック、皮膚科から導入を推進しているようです。診療の補助とすることで患者満足度と効果を高めながら、患者さんが実際に推奨されたウェルネス製品を購入した場合には各病院/クリニックに一定額を還元するというインセンティブ構造でサービス構築中とのことです。
Stellar Sleep
不眠症患者向けのメンタルヘルスプラットフォーム。不眠症の根本には、不安やストレスなど背景因子が多いことに注目して、メンタルヘルスの管理も含めた個別化プログラムを提案してくれるサービスです。
医療機器・バイオ領域
いずれもまだシード期でホームページには情報が少ない&論文まで見ていないのでぱっと見の粗い説明で恐縮ですが、医療機器・バイオ領域では以下のようなテーマのスタートアップが選出されていました👉
Andromeda Surgical
自動手術ロボットスタートアップ。最初は泌尿器系の疾患から取り組んでおり、特に術者が体内のどこにいるのか(例えば内視鏡の先端の正確な位置確認)をGPSのように正しく認識できるメカニズムを開発中。創業チームはメドテック領域の3回目起業家(しかもひとつ前のスタートアップも前立腺肥大症なので泌尿器の知見は豊富)×自動運転領域の3回目起業家という組み合わせで、自動運転の技術を外科領域に取り入れようということで意気投合し創業に至ったとのことです。
MICSI (Microstructure Imaging, Inc)
MRIの解像度を2倍にし、スキャン時間を半分にするAIソフトウェアを開発中。診断の精度を高めるのはもちろん、導入した医療機関の業務効率改善と売上成長に貢献することを期待しているとのこと。
Cleancard
合成生物学×AIを活用し、前立腺がん・膀胱がん・卵巣がんの在宅リキッドバイオプシーを開発中。技術については公開情報が少なく詳細不明。
Olio Labs
AIを活用して標的とするたんぱく質の組み合わせを分析し、それを基に薬剤開発を行うスタートアップ。最初のパイプラインは最近話題のGLP-1の代替となる、肥満用の薬剤とのこと。
Nanograb
こちらもAI創薬の会社で、これまではターゲット出来なかった分子を狙えるようなプラットフォームを開発中。特に注力しているのはがん、神経変性疾患など。
番外編 Synaptiq
最後に変わり種として選出されていたのが医学教育のスタートアップ。UCSF医学部の学生が、自分がUSMLE Step1 (米国医師免許試験)にトップ合格するために開発したAIツールを事業化したとのこと。個別のユーザーの得意・苦手分野をAIが把握し、練習問題で出題される問題を個別化することによって定着率をアップさせるとのことで、現在すでに220の医学部・病院に導入されています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?