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キャロットケーキを焼かない理由

この頃、doyoubiに初めて来てくださったお客さんから「キャロットケーキはないんですか?」と立て続けに尋ねられることがあった。

キャロットケーキを店でコンスタントに焼いていたのは、1年近く前。今は年に数度、イベントの時などごく稀にしか焼いていないので、おそらく最近問い合わせが増えたのは、どなたかが、以前のキャロットケーキを最近SNSに投稿されたからだろうと思う。
その度、今は焼いていなくて、今後も定期的に焼く予定はないことを伝えている。それをお目当てにわざわざ鎌倉の奥まで足を運んでくれたのだと思うと申し訳ない。

野菜でマフィンを作っています とインスタに書いているので、初見の方からすると野菜のマフィン=キャロットケーキに繋がるのかもしれない。
そしてキャロットケーキといえば今や皆が好きな存在。その人気はすさまじいので、期待される方もいると思う。

正直なところ、キャロットケーキを焼けばもっとお客さんがいらっしゃるかもしれない。
けれど私は今、そのためにキャロットケーキを焼くつもりはやはりない。
「キャロットケーキのあるdoyoubi」と認知していただくのは、違うかなと思っている。

理由はいくつかあって、まず一番シンプルなのは、今がにんじんの旬ではないから。正確に言うと春ににんじんを作る場所、農家さんもあるけれど、私がいつも野菜を仕入れさせてもらっている農家さん、定期的に顔を出す鎌倉のレンバイで野菜を売る農家さんの扱う中には今、にんじんはない。

doyoubiとしてマフィンに使える野菜には限りがあるからこそ、今自分がお世話になっている、ご縁のあった方たちが作る野菜をできるだけ使っていたいので、この時期に畑で実り、収穫されたものを材料にしたい。

以前は「キャロットケーキを作る」という目的が先行して、にんじんを仕入れ(旬に限らず、手に入る場所で)ていたけれど、今の私はそれに違和感がある。
それとは逆の流れで、自然に手に入った野菜で、マフィンを作っていくことを大事にしていきたい。

その理由で、今はキャロットケーキではなく、シーズナルのケーキとして菜の花のケーキを作っている。

菜の花のケーキは、以前インスタグラムでも書いた通り、
一般的にスーパーで並ぶ「菜花」だけではなく、いろいろな葉野菜の花を使っている。白菜の花、小松菜の花、かぶの花。この時期にいろんな野菜が花を咲かせることは、よく考えれば当たり前のことだけれど、私はそのことに気づいていなかった。

そろそろスーパーには「菜花」が並ばなくなってくる頃なので、みなさん菜の花は終わりの頃だと思っているようで「もうすぐ菜の花のケーキも終わってしまいますか?」と聞かれる。でも、実はまだ菜の花はある。これから収穫の最盛期を迎える。

いろいろな葉野菜の花が咲くのは、タイミングとしては「菜花」の少し後。スーパーに並ぶ菜の花は、旬を感じさせるために、人が春の野菜を見て喜ぶ頃(まだ寒い頃)を目指してできるだけ早くから並ぶけれど、本来の自然の流れとしては今の暖かくなってきたころが旬。
それらが「菜の花」であるのだけれど、菜花が終わると、人たちの興味は次の野菜へ行ってしまうので、菜の花はあまり買われないのだそう。

今年の2月に、春のケーキで使うとしたらどんな野菜が良いか、横田農場さんへ相談にいったら、横田さんに「菜の花だとありがたいです」と言われた。のらぼう菜花、小松菜花、白菜菜の花。どれもおいしいのに、菜花のシーズンが終わるととたんに影が薄まって、収穫しても思うように捌けないことがある、のだとか。

だから菜の花のケーキを焼いた。

私自身もこの春、たくさん菜の花を食べるようになって、こんなにおいしい野菜はないなと思う。春しかとれない野菜の花、湯掻いてそれだけでおいしい、濃厚な花と葉。
この野菜の存在を知れたこと、おいしいケーキが作れたことは、この春の大きな収穫である。

そしてこれが、キャロットケーキを焼かないもうひとつの理由。
にんじんは、キャロットケーキブームのおかげで新たな需要が生まれた。今や全国の焼き菓子屋やカフェで多量のにんじんが消費されていると思う。
だから今私があえて「にんじん」を頑張って使う必要はない。

キャロットケーキのように、まだ光の当たっていない野菜をケーキにして、おいしいことを伝えたい。
そこに創作の楽しみがあるし、やりがいもある。

それと、これも理由のひとつなだけれど
キャロットケーキは確かにおいしいが、スパイスや砂糖でにんじんの甘みが消されていることが多くて、それに今は違和感がある。
もちろん「ケーキ」としてはおいしいのだけれど、私は野菜の味が感じられるものを作りたい。
具体的に言うなら、にんじんには、黒砂糖やブラウンシュガーを過度には合わせたくない。モラセスも使いたくない。
シナモンやナツメグ、カルダモン、ジンジャー、どのスパイスもおいしいが、組み合わせることでにんじんが消えてしまうならば本末転倒な気がしている。少なくとも自分が作るものに関しては、スパイスをいれるなら1種でいい。何が入っていて、にんじんに対してどんな役割があるのか、理由のあるスパイスを適量だけ取り入れたい。

今の私が、自由ににんじんでケーキを焼くならば、ごく薄い味のケーキを作りたい。蒸したにんじんを潰して混ぜ込み、スパイスは加えない。
味付けは塩だけか、少しだけ酸味を加えるか。
あのほのかで薄い甘みを感じられるようにするには、上のフロスティングにもあまり味はいらない気がする。クリームチーズは重たいので、水切りヨーグルトくらいの軽やかなフロスティングの方が合うかもしれない。
ハーブやスパイスのアクセントが必要ならば、にんじんの葉の苦味を使いたい。そんなケーキなら焼いてみたい。
でもそれは、世の中的にいう「キャロットケーキ」ではなくて、「にんじんのケーキ」と呼ぶのがしっくりくる。なので「キャロットケーキ」を求め来てくださる方には、やはりイメージに沿うものはお出しできないだろうと思うのだ。

その代わりに、キャロットケーキとはまた違う、ちょっと面白いケーキを用意していたい。
それを食べた瞬間から、その野菜のことが深く印象に残るような、
キャロットケーキ的な野菜ケーキが他に作り出せた方が面白い。だから今、キャロットケーキはいったんお休みしたいのだ。


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