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アンツィオ戦・セモベンテの謎(第三回)

それでは、連載第三回目、最終回です。今回は前回の試合の流れをボンプル目線でショートストーリー化します。ちなみに、文章も「伊丹144極小隊」さん作です。

因みにボンプルに出てくる発音しにくい名前は戦車についているコードネームです。
何にしようかと思って検索してたら、ポーランドって果実王国らしいので、
果実の名前と、副隊長車は果実を料理する料理長(クーハシュ)にしています。

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「それじゃ、頼むわよ、副隊長。私は逃げて逃げて逃げまくるから」

「了解しました。マイコ隊長」

私は無線を切ると大きく息を吐いた。

「マリナとヤゴダは迂回して橋に廻って。ジュラヴィナとポジェチュカは静かにX地点の西側に移動。トゥルスカフカ、チェレシニャ、イエジェナ、アグレストは私と一緒にここで待機」

了解という声がそれぞれ聞こえ、我がボンプルの勇士たちは移動を始める。
セモヴェンテが3輌とも同じ場所に固まっていたのは私たちにとって運がいい。
固定砲塔だから反撃される場所はほぼ正面のみ。そこに主力を置く馬鹿はいない。
やつらは75mmだからうちのTKSなど文字通り吹っ飛ぶ。
マイコ隊長のルノーでも当たれば即白旗だ。
だから流れ弾が当たらないようにこの場から退避しておく方が良いのは当たり前。
P40にさえ出くわさなければ残りは豆戦車で、全車両がよってたかろうと機銃では撃破されっこない。
ただ隊長が離脱したのをセモヴェンテに見られた可能性が高いのも事実だから安心はできないけど。

「クーハシュ。橋に着きました」

マリナから通信が入り、私は時計を見た。

「了解。11時35分に私の命令と同時に全車一斉射撃。続いてすぐに二発目を撃てるように装填急げ」

私の指示に全車から了解の声が戻ってくる。
私は双眼鏡で正面の建物を見つめる。
窓越しに3輌のセモヴェンテが確認できる。
残念ながらどれにフラッグがはためいているのかはわからない。
まずは両サイドの戦車を撃破する。どちらかに旗が立っていればそれで私たちの勝利。
もし真ん中であっても身動きが取れなくなるから、後はじっくりと攻めればいい。
しかし、アンツィオの連中の割に仕掛けてこないのが不気味だ。
知波単とまではいかないものの直情的に攻撃する印象が強い高校だったはずだけど…。
まあいい、念願の2回戦進出も夢ではなくなってきた。

「Atak!」

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我がボンプルの一斉砲撃が轟き、壁が崩れる音で周囲が喧噪の渦となる。
が、ほんの二三秒遅れで75mmの砲撃音が響いた。
読みが外れた…。
いや、アンツィオの読みの方が上手だったのだ。

「クーハシュ!やられました!」「こっちもです!」

ジュラヴィナとポジェチュカから撃破されたという悲痛な声が届いた。

「だめです!こっちの壁からは無理です!壁の向こうは設備が詰まってて連中のところまで届きません!」

橋側の2輌から焦った声が伝わる。

「よし、橋を戻って迂回して逆サイドに出ろ。できるだけ急げ。正面組は射撃開始。連中を牽制するんだ」

私は微かな動揺を表には出さずに瞬時に指示を出す。
おそらくセモヴェンテを率いている者が建物の状況を調べていて、反撃する方角を決め打ちしたのだろう。
こちらの37mmじゃ壁を壊した後、車体に届いてもかすり傷程度しか負わせられない。
第二弾目で仕留めようという腹だったが、その数秒の間に左翼側の2輌がともに撃破されてしまった。
かなりできるやつが指揮をしているに違いない。

双砲塔2輌とTKS2輌からの機銃音が休みなしに響き続けている。
これだけ浴びせ続ければおいそれと壁を崩して外には出まい。
もっともできるやつなら外に出れば弱点の側面を狙い撃ちされるということくらい承知している
だろうからあそこから動きはしないだろう。
しかし、アンツィオの癖にどうしてあんなに辛抱強いのだ?
できるだけ壁を崩すまいというところなのだろうが、こちらの機銃音以外の音がしない。
私の7TPも撃破目的で陣取ってはいないので正面の壁を崩すような砲撃は控えているのだが…。
そのようなことを思っていると砲撃音と白旗が上がる音がすぐ近くで聞こえた。
クラッペから覗くと左側に陣取っていた双砲塔の1台から白旗が上がっている。
まずい。場所的にTKSが後退できなくなってしまった。

「イエジェナ、アグレストはすぐに」

私の意図を察したのだろう、急発進したイエジェナTKSが文字通り吹っ飛んだ。
横倒しになった車体から白旗が出る。
一瞬もうもうとした煙で周囲が見えなくなってしまった。
この隙にアグレストTKSを移動させようと指示を出した瞬間、今度は路面の石が轟音とともに飛び散る音がした。

「クーハシュ!割れた地面に突っ込んでしまって動けません!」

私は臍を食んだ。
こうなったらもう無理だ。足を止めてしまった以上狙い撃ちされるのがオチだ。
案の定、10秒後には白旗が上がる音がする。
これで正面側は私と双砲塔1台きりになってしまった。
なんてことだ、9対3があっという間に4対3になってしまったではないか。
あのセモヴェンテは無駄弾なしで的確に砲撃をしている。
やつがあっちのリーダーか?

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「クーハシュ!西側に出ました。撃っていいですか?」

「待て、先にこっちが撃つ。連中の注意がこっちに向いた瞬間に撃て」

さすがに壁は崩せないので、私は路面に砲身を向ける。
横倒しになっているTKSは近くで砲弾炸裂するから怖いだろうけど我慢してほしい。

私の指示で正面からの牽制攻撃が始まる。
最初と比べると随分とおとなしめで寂しい。
そして、左翼から砲撃音がした。

「よし!一番奥のセモヴェンテをやっつけ…わぁっ!」

「どうした!」

「ヤゴダがやられました。次撃ってきたら間を抜けて橋側に移動します」

良い判断だと思った。
西側には我がボンプルの戦車が3台頓座しているのでセモヴェンテがすり抜けるのはそう簡単にできないだろう。
となると橋側に抜けようとするだろうからそちら側に抑えがいる。

「私が撃ったら続けて撃て。向こうが2発撃ったら、すり抜けろ。ただし向こうの二発の間隔が開いたら無理するな」

了解の声に私は狙いを定める。
西側のすでに崩れた壁のあたり。
あそこに着弾したらさすがに反応するはずだ。
私の37mmが火を噴いてすぐにマリナも続く。
たちまち相手側から砲声。1秒、2秒、3…砲声がした。今だ!
石畳に履帯がきしむ音がして、クラッペの端から急発進してきたマリナの7TPの姿が見えた。
よし!と思った瞬間、砲声が轟き、7TPの車体が揺らぎ急制動がかかった。
シュパッと白旗が上がった時、私は思わず「嘘だろ」と声を漏らす。
何秒で装填した?ちくしょう…これで2対2か…。

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私は照準を合わせた。
障害物が多すぎて車体そのものがほとんど見えない。
壁越しに当てるしかないが、その中で弱点となる場所は…。
車体が衝撃に震え、私は前方を見つめた。
はじけ飛ぶ煉瓦とともに閃光が走った。
黒煙の向こうで白旗が上がるのが見える。
フラッグか?フラッグなら私たちの勝利だ。
息を呑んで試合終了のコールを待ったが聞こえてくるのはエンジン音だけ。
最後に残ったのがフラッグ車だったのか…。
まあいい、これで2対1、向こうは逃げ場のない固定砲塔。前の壁を崩して逃げようにもその場合はこっちに側面を思い切り見せることになる。この距離では外しようのない的になる。
徐々に壁を崩すことで焦燥感に苛まれて逃げようとすればこっちのものだ。
勝利の予感に有頂天になりかけた私はクラッペから見える光景に愕然となった。

射線が、ない。

どうする?回り込むか?トゥルスカフカに牽制させて回り込む…間に向こうは逃げてしまうだろう。
それならこの障害物だらけの道を前進するか?もたもたしてると向こうから攻撃を仕掛けてくるのは必定だ。
どうする?どうする?!

その時突然、試合会場に声が響いた。

「フラッグ車ルノーFT走行不能。アンツィオ高校の勝利!」

私はハッチを開け身体を乗り出し周囲を見渡す。
燦燦たる光景に苦笑するしかない。
あちこちの戦車から仲間が這い出てくる。
マリナの車長が神妙な顔をしてこっちに歩み寄ってくる。

「副隊長、すみません。うちの、思い切り射線の邪魔になってましたよね」

「ああ、そうだな。まあ仕方がないさ。あの装填スピードじゃ逃げきれなかった」

「うちの連中で言ってたんですよ。副隊長が砲塔ごと撃つんじゃないかって」

あ、と声に出た。
その手があったかと一瞬思ったがすぐにプッと吹き出してしまった。

「無理無理、37mmだよ。どこかから88mmでも貰ったらやってみるわ」

仲間たちはそれはそうだと笑い合い、私は怪我をしている者がいないか確認する。
すると、ぞろぞろとアンツィオの連中がこっちに歩み寄ってきた。
先頭に立っていたのは挨拶の時に顔合わせをした副隊長の美人さんだ。
彼女はにっこり笑って握手を求めてきた。

「いい試合でした。もうだめかと思いました。偶然あそこで止まるなんて運が良かっただけですね」

柔らかい手を握りながら、私は腹の底で悪態を吐いた。
嘘吐け、絶対に計算してただろ、こいつ!

「いえいえ、作戦ミスでした。橋の方に配置する必要がありませんでした」

相手は微笑んだまま言葉を返さず、建物の構造を調べたうえでの布陣だったのだと私は了解した。
運じゃない。明らかにこっちの力不足だ。
アンツィオとうちって似たような戦力だと思ってたのだけど物凄く成長してた。
戦車道界隈で噂されてる、これが大洗効果ってやつかしら?
私達も頑張らなきゃ。

「い、痛いです」

「あ、ごめんなさい!本当にありがとうございました!」

私は慌てて手を離し、心の底から感謝の言葉を述べた。
来年は目にもの見せてやる。

(おわり)

はい、ということで、わずか数秒のセモベンテのシーンから導き出される設定(妄想)をわざわざ模型化してお伝えする記事でした。公式設定が一部しか無いので、残りは想像の翼をたくましくしましたが、いかがだったでしょうか?

感想がいただけると、嬉しいです。では、次はまた別の作例で♪



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