羊文学 - 光るとき ①

はじめに

シンプルな楽曲構成、力強さと儚さを併せ持つハスキーな歌声、神秘性をはらんだ雰囲気の敷衍、空間への浸透感。この曲に限らず羊文学としての歌唱や楽曲の魅力だけでもいくらでも語れそうだが、特に歌詞に感銘を受けたのがこの曲だった。
「光るとき」はテレビアニメーション「平家物語」のオープニングテーマである。この曲はタイアップということもあり、アニメや平家物語そのものの世界観をそのまま投影したようなものとなっている。「盛者必衰」「諸行無常」が主題である同古典に対し、この曲では「生きること」とその美しさや輝きが曲全体を通して伝えたいことだと感じた。歌詞を順を追って見返すことで新しい発見や解釈が浮かんだので、それらの考察を数回に分けてここに記していきたいと思う。

※あくまでも筆者個人の感想や受け止め方であり、必ずしも考察や解釈が正しいことや、それらを強制するものではないことをご理解ください。

歌い出し~コーラス

歌い出しは、花が咲き、枯れて、種になってまた花が咲くという平家物語の主題そのものを凝縮したような導入となっている。草木の移ろい等の情景描写を冒頭に持ってくるのは古典ではお馴染みの形式であるともいえ、歴史物のお約束も取り入れつつ一気に世界観へ引き込まれるように感じる。

あの花が咲いたのは、そこに種が落ちたからで
いつかまた枯れた後で種になって続いてく

羊文学 「光るとき」より

次に曲としても平家物語としても重要なキーワードである「永遠」が登場する。平家物語ではどれだけ栄華を誇ろうと、それは永遠に続くものではないということが大きな流れの中で描かれている。ここで言及されている「永遠に見えるもの」というのは、その時代ごとに大きな権力や力を持つ人や物を指していると思われる。例えば、財力や恵まれた容姿など今でこそ非常に価値があり、それが永続的に続いていくように思えるものでも「永遠」ではなく一過性のものに過ぎないことを示している。
また、ここでは「君たち」と「君たち」を見る人物が登場する。この「君たち」を少し離れたところから見ているような観測者こそ、アニメ「平家物語」の主人公であり、原典の語り部を意識しているものと言えるだろう。「君たち」については「平家物語」の登場人物たちを指しているとも取れるし、この曲を聴いている現代人や、より一般化して全ての人間を指しているとも取れる。
上記の登場人物と併せて、私(観測者)と君たち、変化と永遠、のように対比となるような言葉が並び、物語や伝えたいことが一気に具体性をもって聞こえてくる。

君たちの足跡は 進むたび変わってゆくのに
永遠に見えるものに苦しんでばかりだね

羊文学 「光るとき」より

続けてメロディが変わり「荒野を駆ける」という歌詞が登場する。これは生きるということの比喩表現であると筆者は考えている。たとえ苦しいことがあったとしても、ひたすらに、がむしゃらに今を生きる。ただ進むだけだというシンプルな思いが伝わってくる。さらに続けて、「明日へ旅立つ」というのは「今」から「未来」へ生き続けることの比喩であり、その覚悟を歌っていると感じた。
ただし、その次の章の冒頭でそのようにがむしゃらに生きることについての疑問や戸惑い、また行きつく先がわかっているという無力感が歌われる。ここで言及されている「運命」は盛者必衰、歌い出しの花が枯れること、またもっと端的に言えば逃れらない「死」を暗示しているのではないだろうか。
それでも、前の章の覚悟に立ち返り、今を全力で生きる、生を全うするという意思表明に回帰していくのだ。そしてその覚悟をもってコーラスへと曲は移っていく。

荒野を駆ける この両足で
ゴーイング ゴーイング それだけなんだ
明日へ旅立つ準備はいいかい

そこで戸惑う でも運命が
コーリング コーリング 呼んでいる
ならば、全てを生きてやれ

羊文学 「光るとき」より

コーラスに入り、この曲の最も伝えたいことが歌われる。「世界は美しい」だ。どういった世界が美しいのかというと、それは続きの歌詞によく表れている。「君がそれを諦めないからだよ」となっているが、ここで登場する「それ」とは前の章で覚悟を示した「生きること」であるはずだ。君が生きているこの世界が、あるいは生きている君そのものが美しいと、何度でも伝えたいとそう叫んでいるのだ。
そして、続く「最終回のストーリー」はそのまま「運命」に置き換えることができるだろう。コーラスの後半は歌詞こそ全く異なるものの前の章で歌っていた内容のリフレインだ。運命には抗えないと分かっていても今を全力で生きること。それが「光るとき」であり「美しい」ものなのだ。

何回だって言うよ、世界は美しいよ
君がそれを諦めないからだよ
最終回のストーリーは初めから決まっていたとしても
今だけはここにあるよ 君のまま光ってゆけよ

羊文学 「光るとき」より

ここまでで、平家物語を背景とする曲としてのメッセージは一旦
全て歌われたということになると思う。ちょうど、アニメのオープニングもここで終わりとなっている。アニメ側では尺などの都合で多くのカットがあり余韻などは感じにくいが、映像と相まってよりイメージや感情移入がしやすいものになっているため是非観ていただきたい。
尚、掲題の羊文学「光るとき」のMVやアニメ「平家物語」のオープニングはyoutubeで視聴が可能となっている。※執筆時点 

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