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サッカー部の彼(仮)

久郷ゼロに尊敬を。

学ランを着る自分をみる。
鏡は自分の姿を写す。

ズボンを履いていない自分を。

学ランの襟。
プラスチックがヒンヤリと冷たく肌にあたる。
この瞬間が私を俺に変えるスイッチのようなもの。
溢れ出る俺を。
ドラムに叩くように。

コップの縁から流れでる水のよう。

ズボンを履き玄関へと向かう。

もう誰もこの家はいない。
親は深夜と早朝の変わり目には出勤する。
だから俺が一番最後に成る。
それは自然で不自然な家の謎のルールだ。


まるで私の事を避けるように。
まるでこの姿に目を瞑るように。
俺が
私が
全く違う世界に生きてるような
無様に、侮蔑、偏見
なんでもいいそんな感覚、神経を持ってるからそうなってしまう。

だから反抗する。
小さな抵抗。

その抵抗はドラムを打つ俺を

髪を揺らす渦のように。

筆の如く。

黒く墨で和紙に書く様に。

今日も体育館で鳴らしてるな」


エースはひとりごとを誰にも届かぬ事を知っていった。

そんなつもりだった。
エースだから奢り高ぶることを許される。

部員からは煙の様に扱われてる事も知っている 知ってるが知らないふりをする。

そうしないと自我を保てない。
泣きそうになるから。
今で積み上げてきたすべてが無駄だと
わかってしまうから。
無知である事を肯定してしまう。

肯定するしかない。
校庭では部活をしない部員が
モラトリアムを愉しむ。

まるでそれが義務だというばかりに。
全然そんな事もないのに。
空気が
空間が
この閉鎖された世界で
言いつけを守るために。

それを求めているだろ
やってるって認めてもらうため。

成果、昇格 名声 信頼 
なんでもいい。

そんなもの全てそこに置いてきたから。
三度そこに戻るから。

根気よくいこうじゃないか」
今度はしっかり向き合ってやるよ」

エースは校舎を眺めながら駆けつづける。


もう新緑の季節。
目につくところには一面緑
青々し緑。

木が
大木ともいう枝を
葉をつけながら鳴らす。

校庭で走る野球部の如く。

いい季節だ。
暑くも寒くもない。
まさに過ごしやすい季節と言っていい。
だけど、だからこそ
私にとっては過ごしにくい。
ドラムの響く音が一層大きく
野球部の掛け声が特大に多く
サッカー部はエースが
静かに黙々と駆ける。

こんなのあんまりじゃないかって私は思う。
どうしようもなく図書室で私は筆をはしらせる。

引きこもるにはいい季節なのに。
どうして私たちは渦を立ててしまうのであろうか。
うねる音。
大木が
渦が
私たちはまた
そこに置いてある

モラトリアムへと対立する。

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