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心の奥の取材ノート

なぎなた範士 澤田花江先生のこと



交わした言葉、ちょっとした仕草、振る舞い――
今もありあり思い出す、取材で出会った人たちのこと。
編集部

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 初めて澤田先生にお会いしたのは2006年、高田馬場駅の改札口でした。その時すでに90歳。小柄でもの静かとお見受けしましたが、インタビューが始まったとたん、目に鋭さが宿り、歯に衣着せぬ勢いで実に4時間にわたって熱く語ってくださいました。
 澤田先生のお父様は剣道家の吉田誠宏氏。のちに昭和の剣聖と言われた持田盛二氏や斎村五郎氏などとともに大日本武徳会で稽古に励んだ方だと言います。
 幼い頃から武道に親しみ、なぎなたの道を歩んでこられた澤田先生には、現在に至る武道の変遷がよく見えるのでしょう。武道を学ぶ者の心構え、稽古のあり方、指導者のあり方、日本人のあり方……。そのお話の内容は厳しいもので、その目は他者だけにとどまらず自分自身へも向けられ、ご自身が怪我のために4年間指導できなかったことについて「これから一から出直してみんなに教えます。口でなく、身体で教えなければわからない」とおっしゃるのです。
 後日、写真撮影のために稽古におじゃますると、まさに肚からの叱責が飛び、自ら手本を見せる先生の姿がありました。「いつでもどこでも掛かっていらっしゃい」という迫力の姿は、インタビュー記事だけでなく、その後も連載でご覧いただきました。
 このインタビューと連載記事はのちに『あくなき向上心』という一冊の本として発行しましたが、その完成を待たずに、澤田先生は逝ってしまわれました。厚みを確認するための真っ白な本に、デザインしたてのカバーをかけてお通夜に持参し、棺に入れていただきました。お弟子さんから、「楽しみにされていたんですよ」と声をかけていただいたことと、澤田先生の言葉を残せたということに、悲しみだけでなく、少しの安堵と、深い感謝の念が湧きました。
 最初のインタビューの別れ際、私たちに育ちざかりの子供がいることを知るや「いい? 大変なことは一杯あるけど、しっかりと育てるんだよ」とかけて頂いた言葉は、大きな力になりました。真っ直ぐな生きざまから発せられる言葉は人を勇気づける――『道』の趣旨を、澤田先生は実感させてくださったのです。(千葉)

―― 季刊『道』 №195(2018冬号)より ――

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