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心の奥の取材ノート

合気道師範 佐々木の将人先生のこと


交わした言葉、ちょっとした仕草、振る舞い――
今もありあり思い出す、取材で出会った人たちのこと。
編集部

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 本誌『道』の前身である『合気ニュース』時代から合気道師範である佐々木先生にはエッセイ「なるほど」の連載、弊社主催の演武会への出演など、たいへんよくしていただいていました。『道』に誌名変更後、改めて佐々木先生にインタビューをしたのは、2006年のことでした。 
 山形のお国訛りがわずかに残る「佐々木節」。どんなお話にも必ずオチがつく。拾い損ねないようにちょっと緊張しながら聞く佐々木先生の来し方のお話は、決して平たんではありませんでした。戦争で、学ぶ機会を奪われ〝飲まず食わずの貧乏〟を過ごされました。片目を事故で失明しても、総入れ歯になっても、ユーモアを忘れずに確実に笑いを取る。豊富な知識と機転の速さ、そして明るさは一体どこから来るのか。
「一言で言うと『恥』である。無学であり貧乏であり、それと十九歳の時に失明し独眼竜になったこと。この三つが今の私を鍛えてくれたのです」
「我が人生あまりにもいろんなことが多かったが、結局は一瞬一瞬のプロセスをプラス思考で生きる。雨が降ってもいい天気じゃないですか。塩水をただで真水にしてくれる。病気になってもありがたい、病気にまでして悟らせようとしている」
 このプラス思考は、命の危機にあっても発揮されました。「倒れて救急車で運ばれたんだけれどね、〝あの世〟に断られて戻ってきました」という電話を何度かいただきました。しかし先生は2013年、とうとう逝ってしまわれました。ちょっとさびしいけれど、別れの悲しさをやわらげてくださったのは、やはり先生のユーモア、「あの世はいいところ。その証拠に、戻ってきた人は一人もいない」でした。
 事務所には、誌名変更の時にいただいた手紙が今も貼ってあります。「人の世は縁の糸のからみ合い。たぐる幸せ、また不幸せ。『道』との出合いの縁が多くの人々を救うことを祈りつつ。 将人」
 今も、支えてくださっていることを感じます。(千葉)

―― 季刊『道』 №196(2018春号)より ――

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