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大学教育への公的支出の増加の是非

 大学教育が、当該者の生涯所得を向上させるという計量的結果から、当該者の大学学費よりも多い税収をもたらすので、合理的であるという議論がある。
 この際に注意しなければならないのは、その生涯所得の向上が、マクロ経済の向上とつながっているのかという問題だ。大卒者の所得が増加したとして、その増分がどこから来たのかによって、議論の方向が全く異なってくる。

1:実際には、ゼロサムゲームで、マクロ経済の増加が生じているのではなく、大卒者に有利な配分がなされるようなルールとなっているだけで、非大卒者から所得が移転されている。

2:大卒者によって、マクロ経済全体の生産が増加しているプラスサムゲームとなっており、パレート改善となっている。

 大卒者の所得増加があるとして、それが上記1と2のどちらなのか、あるいは1と2のどのような混合になっているのかというのは、実証によって明らかにされるべき問題だ。
 また、2であったとしても、生産性が向上して、マクロ経済全体の生産を増加させる「大卒者」とは誰かという議論も問題となる。
 
 現実的には、平成から令和にかけて、大学進学者数も大学進学率も長期的に上昇しているが、日本のマクロ経済の成長率は惨憺たるものだった。経済のパイの拡大には、様々な要因があるので、この表面的な現象だけで、結論づけることはできないが、個々の大卒者の所得増加だけを持って、公的支出を正当化できるかどうかは、実証的には肯定的な評価を下すことはできないのではなかろうか。
 むしろ、非正規雇用者の問題なども広く視野に入れると、非大卒者からの所得移転メカニズムがあることを想定する方が、見落としのない議論、検証ができるものと思われる。