チョココロネ

黙々と生地をこねる手には絆創膏
叩きつけては、また、ため息
心配性の君は、勇気を振り絞って言葉を選ぶ
しきりに前髪を気にしながら、視線を合わせようとはしない
心ばかりの贈り物を、君はお守りだと言って身につけている
触れているだけで、そばにいるような心強さがあると言う
手を伸ばすとガラス越しに触れ合うふたり
その時だけは視線が交わる
その時だけは微かに微笑む
君の苦しみが消えるのは、ほんの少しの間
きっかけさえも忘れてしまうような刹那の戯れに時を忘れ
ふたりにしかわからない秘密ができても
君は失うことを恐れて立ち止まってしまう
心の破片を拾っては隙間を埋めてゆく
その絆創膏はすぐに剥がれてしまうけど
負けないから、大丈夫だからと突き放すのは悪い癖
愛する人のために強くあらねばと
君は止まった時計の針を細い指先で少しづつ動かしてゆく
何度も絆創膏を貼り直して
お互いのチョココロネを片手に、今日もカフェオレで乾杯しよう
長い夜の終わりが見えなくても
ガトーショコラとブラックコーヒーが好きだったあの頃の記憶をたどって
少しづつ失くしたものを拾い集める日々
すぐそこにあるはずのものを取り戻すために
実は甘いものが苦手なことは、まだ、君には内緒にしておこう
嘘つきはお互い様だから

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