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悪魔部長と変態の私。(セクハラ描写あり注意)

20代後半の頃、それなりに名の通った店に勤めていた。

かけもちバイトで収入を得ていて休日は遊んだりゴールドジムに通ったりしていた。
時間にも気分にもゆとりがあった。
仕事は少なくはなかったが、脳が暇だったのでセルフ自己啓発などしていた。

そのときの勤め先に悪魔がいた。

自分で言うのも何だがひとを見る目はあるので、この男は関わっちゃダメな奴だとわかっていた。

従業員を束ねる部長というポジションであったが、女に対する扱いが酷かった。
身内でもないのに「バカ女」などと勤務中に叱責したりする。
基本は女好きで好かれるタイプだったのだが、遊び慣れていない者にとっては距離感バグってるオジサンにしか見えず一部の女性従業員には脅威の対象となっていた。
下ネタ発言は当たり前で、生理期間にも言及するし、常にすべての人間を性にまつわる要素で見ているもはや病気のような男だった。
ちなみに私のことは怖れていたようで、セクハラおよびモラハラ行為はいっさいなかった。(私は声も態度もデカいので)

若い頃の写真をなにかの拍子に見せてもらったのだが、
『魔界のセルジュ・ゲンスブール』
これは人生勘違いして生きるやろ、と思わせる悪魔のような美青年であった。
もしかすると、自身もセクハラまがいの扱いを受けていたのかもしれない。
モテるひとあるあるで、異性が放っておかないためいいことばかりではなく、時に望まぬ扱いを不特定の人間から受けることがある。
好まない異性からも散々アプローチされたりつきまとわれたりして、人間に対しての感覚が次第に麻痺するというか。
そういう経験があるなら自身は品行方正になればいいのだが、堕落するタイプもいるのだろうな。と思った。

ある日、職場に来た女性客で妙な雰囲気を醸し出すひとがいた。
部長と慣れたような仕草で会話をしていた。
女性が帰った後に聞いた。
「あのひと彼女?」(上司にタメ語の私)
「前つき合ってたひと。」(既婚者の悪魔)

悪魔は当時、60歳近くで女性は見たところ30代くらいだったと思う。
雰囲気としてそんなに前に別れた感じはしなかった。
数年以内ってところか。洞察力が冴えわたる私。
すでに不倫じゃないか。

なんで別れたのか訊ねると(私もまぁまぁ野蛮)、彼女が適齢になってきたし、若い子と結婚したほうがええやろなと思って~、でも俺がいいんやって~、だと。
どうも彼女は未練がありそうな空気だったし(まだ好きって顔に書いてあった)いま誰か別のひとと恋してる、交際している感じはしなかった。
私は彼女といっさい会話していないどころか接客もしていないので(レジ打ちはしたかな?)すべて観察の結果である。
見ただけでこういう推察が出来上がる私も相当おかしいと自覚はしている。

年齢も年齢だし、悪魔は当時、不倫交際はもうしていなさそうだった。
収入も次の就職先もあるし、妻の実家も裕福でなにも不自由がなさそうだった。
特別好んではいないが周囲の女と戯れていればいい、そういう感じだった。

悪魔のセクハラは言葉が主で、私が叱責するほどでもなく(どの立場や)、年配の真面目な女性にとっては眩暈がするほどの鬼畜の所業であったようでそれを理由に退職してしまったひともいたのだが、仕事はちゃんと取り仕切っていたし、なにより奴が立ち上げた店だったので気に入らなければ辞めるほかないのだった。

私が直接受けた被害はこれといってない。
ないのだが、奴にそそのかされて、交際した男とのあいだに授かったのが娘である。
娘の父親は仕事熱心、働き者で従業員を大切にしていた。
私はそのことをきっかけにこの職場を去った。
私に男ができたとわかったら永遠に悪魔に弄られるからだ。
しばらく秘密にしていたが、交際のきっかけをもらったので一応報告したら案の定、大喜びで騒いで周囲に漏らしたくて仕方ないといったバカの小学生のような顔をしていた。
本物のバカはコイツだなと思った。
だが、後悔はなかった。

人生はなにが起きるかわからないものだ。
嬉しいサプライズばかりだったらいいのにな、と思う。
実のところ、良くないことも最高の出来事に変えていくのは自分なのかもしれない。

ちなみにこの店は不採算を理由に閉店した。
悪魔はどこに潜んでいるのかはもう知らない。


魔界の美青年は齢をとって、
キアヌ・リーヴスの映画『コンスタンティン』に登場するルシファーのように顔面も肢体も溶け堕ちていた。
容姿の美しさも永遠ではないという現実を目の当たりにして知った出来事である。


覗いてくれたあなた、ありがとう。

不定期更新します。
質問にはお答えしかねます。

また私の12ハウスに遊びにきてくださいね。


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